69 行き倒れ
「ごめんなさいソフィアさん。こんなことに付き合わせてしまって」
「ううん。私が役に立てるのはこのくらいだし……それに協力関係だからね」
二人がいるのは図書館。二人は呪いやアルストレスタについて文献を漁っていた。
本当はもう一人の協力者であるフリードにも声をかけようか迷ったが、朝からユーリと一緒にヴィットーリオのもとへ出かけていた為、ここにはいない。
ソフィアは本を机に積み上げる。
「これ。アルストレスタの歴史が綴られてる」
「これは中々壮大な……」
机の上には分厚い本が山を成して並んでいる。全てソフィアが集めたものだった。
目的はアルストレスタの歴史を知ること。そして呪いの正体を掴むことだった。
アイリスが一冊手に取り、本を開く。
「よ、読めません…………」
本のどれもが古語で綴られている。古語は最近勉強を始めたばかりで苦手意識がある言語だ。
「歴史本だからね。お姉ちゃん、古語読めない?」
「お恥ずかしいのですが読めない……です……しかしここで引くことはできません!」
アイリスの謎の気迫に目を瞬かせるソフィア。アイリスはもう一度手に本を取り、分かる単語や文法を拾いながら読もうと試みる。
「えっと……ここの文法は……なんだっけ……」
「お姉ちゃん」
ソフィアが近づき、二冊の本を机に置く。
「これ、古語の辞書と文法の本」
「ソフィアさん……ありがとうございます!」
歴史書が古語で記されている書物が多く、歴史を知るためには古語を読み解くことは必須。その為辞書や文法の本はとてもありがたかった。
こうして二手に分かれてアイリスとソフィアは歴史書を読み漁る。
「頭がパンクしそうです……」
次々と辞書を使いながら読み進める。一方ソフィアは古語を読み慣れているのかスラスラと読んでいる。
アイリスは次の本に手を伸ばす。
「うん?」
パラパラと辞書を捲る。
「あれ?」
「どうしたの? お姉ちゃん」
「なんか辞書に載っていない単語と文法が……」
本を渡すとソフィアもパラパラと捲る。
「これ……古代語だ」
「ソフィアさんは古代語……」
「読めない」
ソフィアから本を返される。今まで古語だった歴史本にいきなり現れた古代語の歴史本。
(何かありそうな気はするけど……)
「あれ?」
古代語なんて呼んだことが無いアイリスは本を諦め半分で眺めるが、違和感がある。
「原初の樹ありけり」
「……お姉ちゃん?」
「魔力の流れ、行き着くうちの一つ」
「もしかして、読めてる?」
「これであっているなら読めて……ますね」
頭を真っ白にして先入観に囚われなければ内容が、言葉が頭に入ってくる。
「古語は読めないのに古代語は読めるんだ……変なお姉ちゃん」
「あはは……みたいですね」
こうなれば効率的に古語はソフィアが。古代語はアイリスが担当して一気に読み漁る。
「つまり要約すると……」
一通り読み終わった後二人で意見交換をする。
「魔鉱石の原料は、原初の樹みたいですね」
「うん。そしてその樹の場所は秘密にしなければならない。それに封印されているみたいだね」
「原初の樹が無ければ魔鉱石は生まれない。原初の樹はアルストレスタ以外にもあるみたいですけど、どこにでもあるわけではなく、土地の気候等が関係しているみたいですね」
アイリスの言葉にソフィアは頷き、手元の本を見る。
「それと原初の樹は純度の高い魔力からできているみたい。だから人間の体内に直接摂取してはならない……やっぱり普通の樹とは違うね……もしかしたら見た目も……」
集まった情報は多かった。それを纏めるのも一苦労だ。
ふと時計を見ると、既に日が落ちている時間になっていた。まだ子どものソフィアを遅くまで付き合わせるわけにはいかない。
「大変! ソフィアさん、ありがとうございました。今日はここまでにして解散にしましょう」
「わかった」
本を閉じ、変える支度をするソフィア。
「家までお送りしますね」
アイリスも立ち上がる。
「大丈夫。一人で帰れる。いつも一人で図書館から帰っているし。何よりお姉ちゃんが私を送ってくれた後迷子になる方が問題だと思う」
「……………………」
言い返せないアイリス。確かにソフィアが言う通り迷ってしまう可能性もある。
「分かりました。ではせめて」
アイリスはソフィアの手を取り、目を閉じる。ソフィアの身体が淡く光る。
「これって……」
「簡易的ですが結界を張りました。気を付けて帰ってくださいね」
「うん。ありがとう」
図書館の出口までソフィアを見送る。
「あれ? お姉ちゃん帰らないの?」
アイリスはソフィアを見送り、図書館へ戻ろうとしていたのでソフィアは慌てて声をかける。
「はい! 私がここに来た目的を果たすためにこれは必要なことですし」
「じゃあ私も」
改めて図書館に入ろうとしたソフィアをアイリスが止める。
「ソフィアさんは一度家に帰ってください。一回休んだ方がいいです。私はまだ夕食までに時間がありますからあと少しだけ頑張ってから帰ります!」
「お姉ちゃん……」
「だからまた明日、改めてお付き合いいただけますか?」
「うん!」
パタパタとソフィアが帰っていく。アイリスは姿が見えなくなるまで見送った後席へ戻った。
「さて、私はもう少し頑張らないと!」
ソフィアと分担して読んだ書物から得られた情報は多い。それを整理する為には出てきた情報の真偽を調べる必要もある。
歴史書に加えて地学や魔法学の本等片っ端から様々な分野の参考図書を集めて読み耽るのだった。
「あらら。こんなところで行き倒れているとは思わなかったな。まあらしいと言えばらしいのかもしれないが」
何かが肩にかかる感覚と髪を柔らかく梳かれた感覚がして勢いよく顔を上げる。
「起こしたか」
「起こし……私寝ていました!?」
記憶が途中から抜け落ちているような気がするアイリス。どうやら読み疲れてしまい、そのまま寝てしまったようだった。
また、肩にフリードの上着がかかっていた。
「ありがとうございます」
「いいえ。ふふっ」
「?」
フリードに上着を返すアイリス。一方フリードは、上着を受け取りながらもアイリスを見て小さく笑っていた。
「おでこ。赤くなってる」
「はっ!」
おでこを両手で押さえる。フリードはくすりと笑う。
「それにしてもすごい数の本だな。歴史書に天文学、地学、医学……古代語の本まで」
「古代語の本は読めるんですが、古語の本が難しくて……歴史書のほとんどが古語なのでなかなか解読が難しいんですけど、辞書使いながら悪戦苦闘中です」
「へえ……それで昨日鍛錬が終わった後朝まで学園のテスト勉強で夜更かしして、結果図書館で行き倒れと」
「倒れていません!」
行き倒れ。なんとなくその単語が恥ずかしくて、強めに否定する。
「それに夕食までまだ時間が」
「ん」
フリードが時計を指さす。
「え……………………………………もうこんな時間!」
気が付けば夕食の時間なんてとっくに過ぎていたのだった。
「いくら集中していてもちゃんと帰っておいで。こんな隈作って行き倒れる前に」
するりと目元を優しく撫でられ、反射的に目を瞑る。
「約束。覚えてるよな。まあ、こういった意味で言ったわけではないのだけど」
「はい……」
約束。それはどんなに遠くに行ったとしても最終的には必ず帰るということ。アイリスは思い出して頷いた。
「よろしい。まあ、どうしても帰れない時はちゃんと迎えに行くって決めているから。……さあ、帰ろうか」
フリードはどうやら帰ってこないアイリスを探しに来たようだった。手間をかけてしまったことを申し訳なく思いながらも急いで片付ける。
するとバタバタと足音が聞こえ、勢いよく図書館に転がり込んできた。
「ソフィアさん!?」
「お姉ちゃん! あの人が…………父さんが町の人に捕まった」
本日20時台にもう1話更新します!




