61 原因不明な緊急事態
「戻りました! ………………あいつはどうですか?」
屋敷に駆け込むのはオーウェン。
「まだ意識が戻りませんが容体は安定しています。そちらは何か収穫ありましたか?」
「やっぱり予想通りあの『ミア』とかいう女が失踪したらしいです。今はそれしか情報がありません」
「そうですか」
オーウェンは心配そうにアイリスにあてがわれた二階を見つめる。オーウェンが駆け込んでしばらくするとルイも帰ってきた。
「そんなに心配なら様子を見に行けばいいじゃないですか」
「い、いや! 淑女の部屋に無断でっていうのはだな!」
「今は病人でしょ」
結局オーウェンは心配が勝り、アイリスの様子を見に部屋へ向かう。
ルイもアイリスの眠っている部屋を見上げる。
「置いてきた方がよかったんじゃないですか?」
「…………………………………………」
アイリスが急に倒れた時、倒れてもいつもだったらすぐに目を覚ましていた。たとえ魔力が大きく乱れたとしても第三者が魔力の乱れを整えるという対処法があったが、今回どれだけSランククラスの魔法師が干渉しても魔力の乱れは治らなかった。
「フリードさんは?」
「ヴィットーリオさんのところへ。被害の確認に出向いています」
「あの人でも働くんですね」
「まあさすがにこちらにも損害が出ていますからね。彼女が倒れた原因の一端にこの町の『呪い』が関わっている可能性がありますし。とりあえず彼女の容体が安定しているうちに「オーウェンさん! あいつの様子が変です!」……今行きます」
切羽詰まったオーウェンの声にユーリは走り出す。
「フラグってあるんだな…………」
ルイも後に続くのだった。
「アイリス!?」
「はあ……はあ……」
アイリスは意識がない状態で息苦しそうに呼吸をしている。
「もしかして」
ユーリはアイリスの額に手をのせる。
「すごい熱だ」
「!」
「ルイは屋敷の人から薬もらってきてください。オーウェンは清潔な手ぬぐいと水桶を」
ユーリの指示で二人は部屋を飛び出す。そしてしばらくすると屋敷の主人が現れた。
「お待たせしました。こちら薬湯です」
「ありがとうございます」
ユーリは薬湯をもらうとアイリスのもとへ向かう。
「ルイ、彼女を支えてあげてください」
ルイは頷いてアイリスが薬を飲みやすいように抱き起こす。
「あつい……」
ルイは触れているアイリスの体温に驚く。
ユーリはルイの言葉に眉間のしわを深めながらもアイリスの口元に薬湯を添える。
「アイリス……つらいでしょうが飲んでください」
「う………………」
アイリスは意識が朦朧としながらも薬湯を流し込む。その様子にユーリとルイは安心した。最悪な状況は薬湯すら飲めない状況だ。
今までアイリスを支えていたルイは、ゆっくり寝台にアイリスを寝かせている。
「薬湯大変助かりました。ありがとうございます」
「いえ。……そちらのお嬢さん、早く良くなるといいですね」
「けほっ」
小さなむせるような音が響く。
「けほっ……ごほっ」
小さくむせる音はどんどん激しくなっていく。
「ちょっと、しっかりして」
ルイは慌ててアイリスの丸まった背を摩る。アイリスは意識がない状態で手を口元へ覆い、ひどく咳き込んでいる。
「アイリス!?」
口元を覆っている手から赤いものが流れていることをルイは目にする。
「ユーリさん、吐血!」
「!! アイリス!? 一体いきなりどうして……まさか毒!」
ユーリは慌てて振り返り、魔法で屋敷の主人をツタで拘束する。
「一体何を!」
主人はひどく驚く。
「とぼけないでください。貴方あの薬湯に一体何を入れたのですか!」
「落ち着け、ユーリ」
静かな声が響く。魔法を使って現れ、咳き込んでいるアイリスの額に手をのせるのはフリードだ。
「大丈夫。ゆっくり呼吸をするんだ」
「はあっ…………はあっ……けほっ」
「まだか」
フリードが小さな声でぼそっと呟いた後、バタバタと足音がする。
「ようやく来たか……」
「お嬢様!」
ノックもせずにメイド服を着た使い魔が部屋に雪崩れ込んできたのだった。
「お嬢様! 大変お待たせいたしました。これでもう……大丈夫ですよ」
メイド服を着たアイリスの使い魔バレットは懐から小さな試験管のようなものがついているペンダントを出し、それを苦しんでいるアイリスの首元へかけるとペンダントから白い光が眩く放たれ、次第に光は収束していく。
「お、おい! すごい光っていたけど大丈夫か?」
オーウェンが慌てて部屋へ入ってくる。両手に大きなバケツをぶら下げて。
「う……ん」
アイリスがゆっくりと目を開ける。
「あ、あれ? おはようございます? なんだかよく寝た気がします」
部屋にいる全員から視線を向けられているアイリス。ルイはゆっくり床から立ち上がる。
「いったい!!」
ルイは思いっきりアイリスの頭をチョップしたのだった。
「ルイ、気持ちは分かりますが落ち着いてください。一応病人なのですから」
「一周回ってこの能天気女に殺意湧いてきた」
「堪えてください」
ユーリがなんとかルイを窘める。
「本当に大丈夫か?」
フリードが心配そうに声をかける。
「はい。……いえ、今すっごく頭が痛いです」
ルイに叩かれた部分を摩る。フリードはゆっくりと息を吐く。そしてオーウェンを見る。
「で? オーウェン。その両手に持っているものはなんだ?」
「見ての通りバケツです。たくさん水がいると思って。ほら、熱が出てきたときはたくさん水を飲んだ方がいいっていいますし!」
「私は飲み水を持ってこいとは言っていないはずでしたが……しかも飲み水でバケツ……」
アイリスを心配してのことだと分かっていたが、やっていることは斜め上だ。アイリス以外全員呆れている。
フリードはゆっくり彼女の使い魔を見る。
「さて、ツッコむものもなくなったし、ネタばらしといこうか。……………………彼女の不調の原因を」
本日20時台にもう一話更新いたします!




