59 心配
「それってどういう「アイリス! よかった!」あ」
前から走ってくるのはユーリ、オーウェン、ルイ。
「みんな探していたからな。連絡だけしておいた」
「なるほど……」
どうやらアイリスと出会った後秘匿魔法を使って連絡をとっていたらしい。こういう時魔法は便利だ。
「出かける時は誰かに何か言ってから出かけてください! ルイがいたでしょう」
ユーリは少し怒りながらも安堵していた。
「ルイ君、寝ていたようでしたので……」
アイリスは出かける時、屋敷内にいたルイへ声をかけようと部屋をノックしたが返事が無かったのだ。しかし気配はあるので寝ていることは予想できた。ただ、起こすのは申し訳ないと思ったアイリスはそのまま屋敷を出てしまったのだ。
ルイがぷいと明後日を向く。ユーリは大きなため息をつく。
「せめて書き置きくらい残してください。心配するでしょう」
「心配……」
寮対抗戦の時もそうだ。人から心配なんてされたことがないアイリスはどうするべきか分からず狼狽えてしまう。
「今度は寝ていても起こしていいから」
ルイが小さく呟く。
「任務に来たのに迷子探しに変わるなんて間抜けなことしてみなよ。それだけでさらに面倒なことになるから」
「…………ご、ごめんなさい?」
どうやらルイもアイリスを心配して探していたらしい。こうしてこの場にいるのがその証拠だ。
「でも本当によかった! もう夜だしこれで人攫いにでもあったら俺は……俺は……!!」
オーウェンはなぜか拳を握りプルプルと震えている。そしてオーウェンの魔力が漏れて周りの温度が上がっていく。
「オーウェン、魔力が漏れていますよ」
「はっ!」
ユーリから言われてオーウェンは慌てて魔力を制御する。
「べ、別にお前を心配したとかそういうんじゃないからな!」
「はあ」
オーウェンはなぜか顔を赤く染めてアイリスに話す。アイリスはよく分からないので適当に返事をする。その様子を見ていたルイは鼻で笑った。
「なんというか……相変わらず単純ですね。一度どうしてそんなに単純なのか頭の中を見てみたいですよ。ああ、何もないから単純なんですね」
「そういうルイは毎日ジメジメネチネチ陰険眼鏡じゃねえか!」
「オーウェンさんでも陰険って単語知っているんですね」
「ルイてめえ……」
「ま、まあまあ」
ルイとオーウェンの一触即発な雰囲気に慌ててアイリスが仲裁に入る。喧嘩に発展しそうな時は大体ユーリが仲裁に入っていたが、どうやらアイリスにもその役目を全うしなければならない宿命のようだ。
(それにしても……)
アイリスはルイ、ユーリ、オーウェンを順番に見てはゴシゴシと自分の目を擦る。
「なに」
「いえ……」
ルイが視線に気づいたようで鬱陶しそうだ。それもそのはず。アイリスが三人を凝視していたからだ。
(なにか……見える……)
アイリスはもう一度よく見てみる。ユーリ、オーウェン、ルイの身体に赤黒い何かが纏わりついていたのだ。
アイリスは近くにいたオーウェンへ駆け寄り、埃を落とすようにペチペチと触る。
「え? え?」
オーウェンはいきなり触れられたことに驚いたのか顔を真っ赤にしている。
(取れない……これって魔力……?)
そもそもこの赤黒い何かに触れた感触はない。振り払おうとしてもそれはオーウェンに纏わりついたままだ。
「え? なになに? 何かついていたか?」
オーウェンは顔を赤らめながらもアイリスが触れた腕を同じように埃を払うように動かす。
「いえ……あれ?」
ふとフリードを見つめるとフリードだけは赤黒い魔力のようなものを纏っていない。アイリスははっとして自分の掌を見つめるとやはり赤黒い魔力は見えなかった。
(フリードはともかく自分のことは自分で判断できない。それでもヴィットーリオさんの言っていた『呪い』の霧とこの赤黒い魔力は関係があるのかな……それにしても一体いつから……)
突然視認できるようになり戸惑うアイリス。そして周りの通行人も凝視する。よくよく見れば淡く赤黒い色の魔力が人々に纏わりついていた。
(なんで今まで気が付かなかったんだろう……でも、この魔力の原因と対処法が分かれば少しでも呪いの根源に近づくことができるんじゃないかな……)
「アイリス!」
名前を呼ばれた瞬間何かに引き寄せられ、腰と後頭部に手をまわされる。
「ぐへっ」
急に引き寄せられたこともあり、顔をぶつけて間抜けな声をあげてしまう。フリードの胸に引き寄せられたようで、顔に衝撃が走りながらもアイリスに回された腕は何かから守るかのようだ。
「フリード?」
「うわあああ!」
フリードを見上げようとしたが、オーウェンが大きな声を上げどこかを指さす。
「え?」
そこには先を見通せない深い深い霧がアイリスたちに迫っていたのだった。




