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55 いらない物

「身体に異変は?」

「ないです。大丈夫です」


 アイリスの後ろを歩いているフリードはアイリスの体調を気遣って声をかける。アイリスは嘘偽りのない返答をする。

 今は町長であるヴィットーリオに案内されアイリスたちは町中を歩いていた。出店も多く、町は活気がある。


(人がたくさん……気を付けないと)


 外套のフードを深く被り直す。少しでも自分の髪が他者から見えないように。


「ちょっと」

「?」


 横を歩いていたルイが不満そうにアイリスを見る。


「そんな下ばかり見ていてぶつかっても知らないから」

「え?」


 突然アイリスの腕をルイが引っ張り、アイリスはルイの立っている場所へよろける。


「おっと、悪いな嬢ちゃん」


 どうやらこのまま歩いていたら横の角から出てきた男性にぶつかっていたらしい。


「ありがとうございます……」


 お礼を言うとルイは何も言わずに視線を逸らす。


(少し怖いけど根はいい人なんだよね……)


 対応が冷たいだけで危ない時はなんだかんだ助けてくれたりする為、冷たい態度の一つ一つで一喜一憂はしない。


 ふとキラキラしたものが目に入り視線を向けるとそこにはたくさんの髪飾りがあった。磨きあげられた翡翠のような色の透き通った石が使われた髪留めや色鮮やかなリボン、それ以外にもたくさんの髪飾りがあり、その場はとてもキラキラしているようにアイリスは見えるのだった。


「へえ。アンタでもああいうのに興味があるんだ。一応女の子っぽいところがあるんだね」


 アイリスが髪飾りのお店を見ていたところをルイに見られていたようだ。


「一応ってどういうことですか……」

「一応女なんだから、アンタもああいうのつければいいんじゃない」

「うーん。私には不必要……ですね」

「なんで?」

「だって、普段髪を隠しているんですよ。髪につける装飾品なんて宝の持ち腐れになってしまいますから」


 アイリスは少し困ったような笑みを浮かべた。


(でもあの髪飾りはエレナさんに似合いそうだな)


 能天気に考えながらも視線を前に戻し、アイリスは歩き続けるのだった。




 

「なるほど。つまり魔鉱石の採掘はあそこの山で行っているのですね」


 ユーリは大きな山に目を向ける。


「はい。ご存知の通りこの国で一番魔鉱石がとれるのがあそこの山でございます。ちなみにこの町で採れた魔鉱石を使って開発した魔法石や魔法具も売られております」

「なるほど……この町の財源は魔鉱石だけではなく魔法石や魔法具も、その一端を担っているということですね。また、それらの産業が発展していることで雇用も安定している……と」

「はい。おっしゃる通りでございます。その為町の治安もよいのです。だからこそ『呪い』さえなければ私たちは平和に暮らすことができるのですが……」

「確かにそうですね……あ、オーウェン、いますね」


 ユーリは後ろにいるオーウェンに話しかける。


「いますよユーリさん! そんなに俺は問題児ですか!」


 目を離すとどこかにいってしまう子どものように扱われたオーウェンは少し拗ねる。


「自覚があるのなら結構です」


 ユーリはオーウェンの存在を確認して歩き出そうとする時、ルイが声を上げた。

 

「あの……」

「ルイ? どうしましたか?」

「あれ」


 ルイが指さす方向に目を向けると子どもたちに引っ張られて遊んでいるアイリス。そしてフリードがいた。

 ユーリは大きなため息をついて頭を抱える。


「湧いてきた子どもに連れ去られました」

「…………このメンバーはまともに歩くことすらできないのですか」


 苦労人のため息は止まることがなかった。








「お姉ちゃん! 遊んで遊んで!!」


 アイリスの周りには七歳ほどの男女の子どもたちが集まっていた。


「うわわわ! 分かりました! でも引っ張るのはちょっと……」


 アイリスをぐいぐい引っ張る子どもたち。一方アイリスは子どもに囲まれたことがなく、どうすればいいのか困惑しながらも、子どもたちに遊ばれていた。


「フリードは大丈……夫そうですね」


 アイリスは一緒に連れ去られたフリードが心配して目を向けるが、どうやら心配は稀有に終わりそうだ。


「なあなあ、何食ったら兄ちゃんみたいに大きくなれる?」

「そうだな。好き嫌いせずになんでも食べるのが秘訣なんじゃないか?」


 フリードは子どもを片腕に乗せて抱き上げる。


「すごい! 高い!!」


 子どもは楽しそうにはしゃいでいる。


(フリードって意外に面倒見のいいタイプだったんだ……)


 そもそもアイリスにとって普段のフリードがあまりわからない。学年が違うこともあるが、胡散臭かったり裏のある笑みを浮かべることが多いのだ。

 しかしアイリスを心配したり気遣う様子を見ると案外面倒見がいいのかもしれない。

 

 ただ、子どもへの返答がどこか適当なところもあり、アイリスは少し笑ってしまう。


(あれ?)


 子どもたちの輪から外れてこちらを見る女の子。どうやらその子は昨日見かけた女の子のようだ。

 アイリスは話しかけようと歩き出す時だった。


「やばっ! 姉ちゃん危ない!」


 男の子の声に咄嗟に振り返るが、時既に遅し。顔面に大きな衝撃を感じ、勢いのまま地面に倒れてしまう。


 抱き起こされる感覚がして顔に手を当てながら目を開ける。


「あー……大丈夫か?」

「全然、まったく大丈夫……です」


 ひりひりするが、その程度だ。フリードに支えられながら起き上がる。近くにはボールを持った子どもが心配そうに覗き込んでいる。


「ごめん! 姉ちゃん! ぶつけようと思ったわけじゃないんだ!」


 どうやらその子どもが遊んでいたボールが顔面に当たったらしい。


「大丈夫ですよ」


 申し訳なさそうな子どもへ笑顔で答えると、子どもは少し安堵したようだった。


「お客様になんてことを……」


 ヴィットーリオが顔を青くしながら責めるように子どもを見ている。子どもはびくっとして怯える。


「本当に大丈夫です。死にそうになる怪我でも痛みでもないので」

「判断基準がそれなのもどうかと思う」


 いつの間にかこっちに来ていたルイが口を挟むが、今そんな余計なことは言わないでほしいと切に思うアイリス。


「アイリスの……アイリスの顔が……」


 なぜか当事者たち以上に青くなっているのはオーウェン。


「あの、全然大丈夫……」

「薬! 薬か!! 俺取ってくる!」


 わたわたと慌てて今にも走り出しそうだ。それを止めたのはユーリだった。


「落ち着いてください。オーウェン」

「でも!」

「アイリスガチ勢……」


 ルイがオーウェンを見ながらボソッと呟く。

 もう一度ヴィットーリオに大丈夫と伝えたら少し落ち着いてくれたようだった。

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