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45 早起きは気合

 アイリスは誰かと一緒に仄暗い道を走っていた。

 前を走っていた誰かに先導され右へ左へ曲がり進んでいく。


「ここにいてもやがて追手に見つかるだけです。勘でも構いません。……さんを信じています」

「……分かった。左だ」


 左へ曲がり道を走って行く。

 しかし前からたくさんの武装した人が現れる。


「待ち伏せされていたのか……」


 すぐ後ろからも同じく武装した人たちが現れる。

 アイリスは一緒にいる誰かを庇うように前に出る。


「大丈夫。必ず守ります」


 アイリスは迫りくる攻撃を避けながら一人ずつ確実に無力化していく。しかし数が多く分が悪い。

 そして一緒に行動していた者へ敵が迫っていたことに気が付いたアイリスは守ろうと慌てて駆け寄るが、アイリスの背後にも武器を持った敵がいたのだった。


「しまった!」


 一瞬の出来事がスローモーションのように長く感じる。

 一緒にいる者を守れないことと約束を守れなかったこと。両方の後悔を抱いて。


 

 


***

「待って!」


 大きな声と何かが腕に巻き付く気配で視界が白く光る。

 そして目を開けると見知った寮の調理場だった。

 

「?」


 アイリスは目を瞬かせ状況を確認する。


「あれ?」


 自分の両腕にグルグルと蔦が巻かれていてなぜか隣で焦っている様子のユーリがいる。そして自分の手の中には包丁があった。


「ユーリさん?」

「はあ。どうやら漸く起きたみたいですね。早く包丁を置いてください」


 蔦がゆるゆると解かれると言われた通りに包丁を置く。


「アイリス、いいですか。あのまま包丁を振り下ろせば切ることになるのは野菜ではなく指ですよ」

「え? …………は、はい」


 意識が浮上してすぐなので、回らない頭を必死に働かせて状況を掴む。どうやら寝ぼけながら包丁を握り、怪我をしそうだったところを気がついたユーリに止められたらしい。


「他の人たちと違って手伝おうとしてくれているのはとても感謝しているんです。ですがさすがに危ないのできちんと起きてくださいね」

「すみません……」


 現在は寮対抗戦数日後の朝。朝ごはん含め家事を主に担当しているのがユーリで、アイリスも手伝っていた。今朝も朝が弱いながら気力で起床して手伝っていたのだが、どうやら寝ぼけてとても危険なことをしていたらしい。

 ちなみに、他寮は家事分担制のところが多いが、どうやら家事への向き不向きがあるらしく、アイリスのいる寮では不向き層の人口が圧倒的に多く、ユーリの負担が大きいのだった。


「朝から騒がしいですね。ああ、アンタ早速やらかしたみたいだね」

「う…………」


 ルイがキッチンに入ってくる。アイリスたちの様子から何があったのか悟った様子だった。


「貴方みたいに起きていながらも手伝わない人間より遥かにマシですよ。……アイリス、この葉物を剥いていただけますか?」


 ユーリから葉物野菜を渡されたのでアイリスは無心で剥くのだった。


 それからしばらく時間が経って朝食の準備が佳境に入るが、問題がひとつあった。


「相変わらず起きてきませんね……」


 フリードとオーウェンが起きてこないのだ。オーウェンは常習だ。フリードは起きていない時もあれば、起きているが部屋にいるパターンが存在するらしい。

 ユーリは毎回二人を呼びにいくのが朝の習慣だった。


「いい加減あの二人には困ったものですね……毎回声をかけるのも疲れますし…………そうだ、アイリス。二人を呼びに行っていただけますか」

「え?」


 いきなり話を振られて驚くアイリス。それにカールから無闇に男性の部屋には行くなとも言われている。できることなら拒否したいところであった。


「さすがにあなたが行けば二人とも飛び起きると思いますので。アイリス、頼みました」


 それからアイリスは拒否の言葉を言う前にキッチンから追い出されるのであった。



 ***


「ふう。さすがにアイリスがいけばあの二人も起きるでしょう。それにしても朝の彼女に包丁を持たせてはいけないことは改めて覚えておかないといけませんね。ほらルイ。お皿出してください」


 アイリスをキッチンから放り出した張本人のユーリはお皿へ料理をのせる。ルイは嫌々ながらも言われた通りお皿を出す。


「なんで俺がこんなことを」

「少しはアイリスを見習ってください。彼女は朝が弱いみたいですが頑張って早起きして手伝おうとしていたのですから」


 アイリスは積極的にユーリの手伝いをしていた。当初はやり方も分からず戸惑っていたが、少しずつ手順を覚え、慣れてきたようだ。それでいて丁寧に作業をすることもユーリにとっては高評価だった。


 朝食も積極的に準備するようになった。ただ、毎回半分寝た状態でキッチンに来ることも多くあり、ユーリは心配して包丁は握らせてはいなかった。しかし今日は少し目を離した隙にアイリスが包丁を握ってしまったのだった。


 完全に責められないのは洗ったら切るという手順通りだったこともあり、手順そのものは間違っていない。しかしそれで大怪我しては元も子もないのだ。


「それにしてもいいんですか? 一応仮にも淑女を男の部屋に入らせて」


 お皿を運ぶことに不満を持ちながらルイがユーリに聞く。


「問題ないでしょう。オーウェンは飛び起きるでしょうし、フリードに至ってはそもそも滅多に人を部屋に入れない人です。ドアの前に彼女の気配がしたら嫌でも起きて対応するでしょう」


 問題ないと断言したユーリは次々と料理をテーブルに並べていく。


「本当にそうかな。……面倒なことにならなければいいけど」


 ルイが小さく呟いた一言は誰にも届くことはなかった。


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