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43 何事にも意味がある

本日前話も更新しております!

 ブザーが鳴り響いた時、ゼンの刀はアイリスの首元へもうすぐ当たるところで止まっていた。


「ほわあああ」


 気が抜けたように変な声をあげてしゃがみこむアイリス。


「すごいですね。ゼン様…………完璧に負けました……」


 折れた刀を鞘に戻しているゼンに目を向けるアイリス。


「いや、今のは相打ちだろう。フリードとの連携も見事だった」

「……やっぱり気が付いていましたか。でも私の負けです。あの魔法に塔を砕けるほどの魔力をこめられなかったので」


 すべては計算の内だった。

 ゼンが闇魔法を斬り捨てた際に生じた隙をアイリスは見逃さなかったのだ。アイリスはわざと今まで攻撃に使用してこなかった刀を使って攻撃しようと見せかけた。そのイレギュラーな動きにゼンは意識をアイリスの刀に向けざるを得ない。

 ゼンの意識がアイリスの刀へ向いてしまうので一瞬アイリス本人へ意識が向かなくなる。その時に相手チームの塔へ風魔法を真っすぐ放ったのだ。距離があったため、若干時間は必要となるが、ゼンはアイリスの首へ、一方アイリスはルール上において相手の首である塔へ刃を向けたのだった。


「それでも見事だった。それと、数で攻めていたのもフリードへ意識を向けさせないためだな。」

「はい……」


 フリードと連携してアイリスはアランへ、フリードはゼンへの攻撃も見抜かれていたらしい。


(さっきの一瞬で冷静な分析……やっぱりこの人すごい……この学園にはこういう人が多くいるのかな)


 改めて自分よりも格上のゼンにアイリスはどこか心が躍るのだった。


「何事にも意味がある……か……」

「え?」


 静かにつぶやいたゼン。

 

「立てるか」


 ゼンはアイリスに手を差し出す。


「はい。ゼン様、色々教えてくださってありがとうございました」


 アイリスは手をゼンに重ねると力強く引っ張られて立ち上がる。


「ゼンでいい。フリードにも『様』なんて使っていないだろう」

「…………あれは少々色々ありまして……それにゼン様は年上のお方ですし……」

(なんだろう……この学園には呼び捨てで呼んでほしい文化があるのかな……)

「気にしなくていい」

「は、はあ」


 さすがに年上相手に呼び捨ては気が引け、ある意味戦闘より困ったことになった。


「アイリス。やはり相当戦い慣れているな」

「そ、そうでしょうか」


 そう言いながらも頭の中では魔法の師であるカールとの修行の日々を思い出す。


「俺は最初に出会った時、いつでも剣を抜けるように手を置き、声をかけた。しかし瞬時に誰にも分からないような早く微細な動きで体勢を立て直していたな。アランは気が付いていなかっただろう」


 最初に出会った時というのは、アイリスが不審人物に間違われた時だろう。


「そ、そうでしょうか」

「ああ。仮に剣を抜いて斬りかかったとしても、絶対に回避されるだろうということは直感で分かった」

「……」


 アイリスは眉を寄せて笑う。ゼンの言う通りだったからだ。


「私はただの低ランク魔法師で……」

「魔法はランクだけではない。それをアイリスは証明したのだ」


 どこか誇らしそうにしているゼンを見てアイリスは頬がひきつる。


(私が抱えている二つのリスクもある。だからひっそり平和に過ごすつもりだったのに、評価が高いと目立っちゃうよ)


 アイリスの二つのリスクは『伝説の魔法使い』と『髪の色』だ。特に『伝説の魔法使い』については、自身が低ランク魔法師というレッテルを貼られたことにより、疑われることはないと考えていた。その為このCランクというランク付けは考え方を変えればアイリスの秘密を守る最強の盾になるのだ。


 しかしCランクのくせに高ランク者を撃破したり、風魔法を発現してしまったことにより、もう既にしっかり目立ってしまっていることをアイリスはまだ気が付かなかった。


「周りがお前を低ランク魔法師だと罵っても、俺はアイリスを認めている。それを俺は言いたかった」

「あ、ありがとうございます」


 嬉しいような嬉しくないような気持ちで笑顔を浮かべるアイリス。そんな中フリードがこちらへ歩いてくる様子が視界に入る。

 フリードがこちらへ歩いてくると、フリードはゼンに目を向ける。ゼンは目を閉じ少しの笑みを浮かべてその場を去った。フリードもなぜか少し楽しそうだった。


「大丈夫……いや……身体に異常があったりするか?」


 フリードはどこか言葉を間違えたように不自然に切り、言葉を言い直す。


「いえ、大丈夫です」

「……アイリス」


 改めて呼ばれた自分の名前にフリードを見上げるとポンと頭に手を優しく乗せられた。


「?」

「よくできました」

「……!」


 なんとなくフリードの表情を見ることができなくなり、アイリスは少し下を向く。


「私……少しは役に立てましたか?」

「ああ」


 優しいフリードの声音にアイリスは少し安心する。


「えへへ」


 足手まといにならないことを第一に考え、どこか気が引けていたアイリス。

 フリードの優しい言葉と肯定は、アイリスのこわばった心をあたたかくするようなものだった。


 ***


 寮対抗戦が終わった夜、アルフィーは所定の場所で人を待っていた。

 しばらく待っていると、ゆったりとした足音が聞こえて意識を向ける。

 

「やっときた」

「悪いな、アル。結果は」


 アルフィーは紙を男に渡す。

 男は一枚の紙に目を落とす。そこには『アイリス・セレスティアの報告書』と書かれていた。


「面倒くさいことを頼まないでよ……フリード」


 フリードは紙に目を向けてすぐに踵を返して歩きだした。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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