42 邪魔なものは放り投げろ
アイリスとゼンはフリードたちと少し離れた場所で静かに立っていた。
「改めてよろしく頼む」
「あ、はっはい!」
ゼンの手には刀が握られている。初めて会った時は剣だと思っていたが、どうやら違うらしい。
ちなみに片刃のものが刀で、両刃のものが剣だ。この国では剣が主流だが、ゼンは刀を使用するらしい。
(ゼン様はアラン様と比べて静かだな。だからこそ冷静だ。きっと少しの不意では対応されてしまう。それにさっきの感じからすると、きっとゼン様の魔法は手に持っている刀に魔力を宿し斬撃にする魔法。それに魔法関係なく純粋に……強い。仮に私が古流魔法を使ったとしても、純粋な戦闘で勝てる確率は低い)
アランの場合は魔法や魔力に警戒したが、ゼンは純粋な戦闘力に特化している気がした為、改めて警戒するアイリス。
「俺は」
「はっ、はい!」
静かに言葉を紡ぐゼンにアランとの雰囲気の違いを感じ取り、なんとなく背筋が伸びてしまう。そんな緊張をゼンは気が付かない。
「女子生徒に刀を向けるということは俺の意に反する。だからお前もこれを使え」
ゼンは片手をかざすとそこにポンと細身の刀が現れた。そしてそれをアイリスに預ける。
一方アイリスはいきなり刀を渡され意味もわからず受け取ってしまうのだった。
「参る!」
「え? わわわわ!」
ゼンが地面を蹴ったと同時にアイリスへ間合いを詰めて刀で斬りかかってくる。それをなんとか反射的に避けてゼンとの距離を取る。
「今の一撃を避けるとはさすがだ」
「…………」
アイリスは額の汗を拭う。今避けられたのは偶然だったからだ。それほどに攻撃は速かった。
(心臓がバクバクする……)
アイリスの手には借りた刀。そもそも刀を触ったことのない為、使えるか不安だった。しかし足りない火力を補う為にも使うしかない。
アイリスは鞘から刀を抜き、とりあえずゼンと同じように握る。
「ゆくぞ」
「はい!」
アイリスは慣れない刀を持ち、避けきれないと判断した攻撃を刀で受け流す。それでも上手く受け流せているかも分からない。正直刀の使い方も分からず現状どう戦えば正解か分からないのだった。
(何よりゼン様の刀が重い……)
アイリスは表情を変えず不敵な笑みを浮かべたままどう戦おうか作戦を考える。
(使って分かったこともある。そもそもこの刀…………いらないんじゃないかな)
刀に慣れていないこともあり、アイリスは回避時に攻撃を捌くために使い、攻撃する時は自身の風魔法を使っている。攻撃面で役に立つことはない。
考えながらもゼンからの攻撃に刀を使って応戦する。
「もっと前だ」
「!」
刀を撃ち合いながらゼンは大きな声を出す。
「間合いがおかしい。あと半歩前だ」
「はい!」
ゼンの言う通り前にでると先ほどよりも動きやすく感じた。
「もっとよく攻撃を見ろ。その速さを有効活用するのならもっとよく攻撃を見ろ」
「はい!」
「視野を広く持て」
攻撃をしながらも言葉を紡ぐゼンの言う通りにアイリスは動くのだった。
***
「あーあ。ゼンの奴。完璧にスイッチ入ってる」
フリードとアランは魔法をぶつけながらアイリスたちを見ていた。
「本当アイリスちゃんには驚かされるよ。あのゼンが人を導いているなんて」
アランは絶え間なく動いているアイリスを見る。そして明らかに動きが良くなっていることに気づく。
「ゼンは女の子相手に手加減なんてできないと思ったけどまさかこうなるなんて。でもいつまでもこうとは限らない。アイリスちゃんを助けに行った方がいいんじゃない?」
アランはフリードを挑発する。
「いや。今のアイリスにとってこれは必要なことだ。そもそもあれは必ず応える。……そういう風にできている」
断言するフリードにアランは眉を寄せる。
そしてフリードはアランに闇魔法を放つがアランは防御ではなく避ける。つまりわざわざ防御魔法を使うまでもなく少し動けば避けられると判断したからだ。
「君、もしかして疲れてきてる? 魔法コントロールがお粗末になってきているよ」
「………………それはどうだろうか」
アランは不気味に笑うフリードに眉を寄せると、死角から魔法の気配を感じて振り返り驚く。風魔法がアランに迫ってきたからだった。
***
「もっと集中しろ」
「はい!」
ゼンは向かってくるアイリスの風魔法攻撃をすべて斬り捨てる。雑になっているのかアイリスは数で押し切ろうとしているようにも感じる。
あげく今放たれた風魔法はゼンへ命中することなく真横を飛んでいく。コントロールが落ちているのだろう。
(潮時か…………)
限界が近いであろうアイリスへ一撃を入れようとするが、ゼンは一度足を止める。
(先ほど俺の横を通った風魔法……明らかに威力が違ったような……)
先ほど避けた魔法は明らかに今までの魔法と比べて攻撃力が高かった。ふと気が付いたゼンは後ろを振り返ると闇属性の攻撃魔法が迫っていたので、それを瞬時に斬り捨てる。そして急いでアイリスの方へ視線を戻すとアイリスが間合いを詰めていた。
(なるほど。これは団体戦。考えたな。だが)
アイリスが初めて刀を使って攻撃しようとしていた刀を上へ弾くとアイリスの持っていた刀は簡単に孤を描いて空中に飛んでいく。その様子を視界に入れた瞬間、ゼンが持っていた刀の刃先が突如割れる。
(俺の刀に込めていた魔力が急に強くなった……なるほど。彼女の得意魔法の一つの魔力強化。おそらく刀という器が魔力に耐えられなくなるぐらい強化したのだろう。まさか初歩魔法をこんなことに応用できるとは……しかし)
刃先が砕けてもわずかに残っている部分がある。ゼンはその部分をアイリスの首元へ迫らせる。
その時けたたましい音のブザーが鳴り響くのだった。




