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40 想いの奇跡

(古流魔法を使わなくとも、何とか戦えている。これからはこれが日常になるんだ。私が伝説の魔法使いだってばれないためにも)


 古流魔法というイメージと詠唱だけの強力な魔法に頼らず、これから外の世界で生きていくには自分の魔法師としての力だけを使う戦法に早く慣れなければいけないとアイリスは強く思いながらも先導しているユーリの蔦の案内に従って走っていた。

 順調に足を動かしている中、嫌な予感を感じる。


(こういう時って大体何か……)


 魔力の気配を感じ、横へ回避するように飛び込む。振り返ると今まで自分が居た場所へ鋭い水魔法が通過していた。


「起こるんだよね……」


 次々と木の間から現れる水魔法を避けていく。先ほどの音魔法と違って視認できる為、避けるのは容易い。ただ今回は威力と手数が桁違いだった。

 初日に出会った胡散臭い男のアランが現れる。


(やっぱりSランク……)


 脳内の予想は正解しているとアイリスは確信している。

 この対抗戦においてSランク者は、魔力制御装置でAランク程度までに魔力を制限されることになっている。

 制限していてもこの威力と迫力。どうしようかと考えている時、地面の小石に思いっきり躓いた。


「わわっ!」


 地面に盛大に倒れたがすぐ顔をあげると水魔法が迫っていた。

 衝撃に耐えるように、ぎゅっと目を閉じるがいつまで経っても何も痛みや苦しみを感じなかった。


「フリード……」


 クレア村の山賊の事件と同じようにアイリスを庇うように立っている。


「へえ。この子を守るようにでてきたってことは何か理由があるのかな」


 フリードは何も言わず口元に笑みを浮かべたままだ。


「やっぱりその子、俺の寮に入れてもいいかなあ。レアなヒーラーだし、かなり戦闘慣れしているみたいだね。それでいてCランクなのにAランク相手に上手く立ち回れるほどの頭脳とセンス。君たちには惜しいほどの逸材みたいだし」


 興味津々な様子でアイリスを見るアラン。その好奇な視線を遮るようにフリードが立つ。


「駄目に決まっているだろう」

「駄目かあ……だったら仕方ないね」


 フリードの答えが分かっていたようにアランは特に何も反論せず、掌を前に出す。どうやらアランは水魔法所持者のようで、先ほどのような水の球体がアイリスとフリード目掛けて飛んできたのだった。


「動かないで」


 フリードがアイリスに短く告げる。そしてフリードは避けずに全ての水を自分の魔法で捌いていた。


(これ私……完全に足手纏いだ……)


 フリードは律儀にアイリスに降りかかる水魔法を全て捌いている。つまりアイリスを守っている為攻撃に転じられないのだ。


「フリード、私のことは気にしないでください。大丈夫なので」

「それは却下だ。いくらアイリスのお願いでもそれは叶えられない」


 フリードはこの場から離れようとしない。


(変な人なのに……なんで守ってくれるんだろう……)


 アイリスを庇うように立っているフリードの背中をアイリスは見つめることしかできない。


(私がここから飛び出せば状況を変えることができる……その時、多分アラン様は私を狙ってくる。フリードにとってはお荷物であり、ヒーラーだから。そうなればフリードは……)


「姿勢を低くして」


 考え込んでいたので反応が遅かった。アイリスの死角から水属性魔法が飛んできたのだ。それをフリードの声に従って反射的にしゃがんで回避する。しかしフリードがアイリスを気遣って後ろを振り返った時に生じた隙をアランは見逃さなかった。


「フリード!」


 前方には大量の水が回転し、大渦のようにアイリスとフリードを飲み込もうとしていた。それは圧倒的な質量の魔法。フリードは笑みを浮かべるが、直撃したらひとたまりもないだろう。


(どうしよう……私はここへ足手まといになるために来たわけじゃないのに)


 アイリスは必死に考えるが圧倒的な実力を前に何も思いつかない。


『落ち着いて。困ったときはどうするんだっけ?』


 思い出すのはカールの言葉。困った時、どうするべきかアイリスは教えてもらっていた。


(ひとつ。自分と相手の状況を確認して情報を集める。ふたつ。何が最善かを考える)


 アイリスはゆっくり呼吸をして自分を落ち着かせ、前を見つめる。


(そして最善への手順を考える)


 アイリスは手を前に出す。


(無属性の基礎魔法で相殺できるか分からないけど……一瞬でもこの質量を弱められたら隙ができるはず)


 無属性の基礎攻撃魔法はアイリスの苦手分野だ。魔力が基礎攻撃魔法へ上手に変換できず、霧散してしまうからだ。しかし今はそれしかできることがない。


(よく観察して……少しでも魔力が薄い部分へ……!)


 そう願って魔力を放つと大渦がきれいに二等分され、アイリスとフリードを避けるように水が裂けて地面へ落ちる。

 フリードとアランは驚いたようにアイリスを見る。アイリス自身もひどく驚いていた。


「何か……真っ二つになっちゃいました……」


 アイリスが放ったのは無属性の基礎攻撃魔法ではなく、四大属性である風魔法だった。



「あはははは! 君本当に面白いよ! ヒーラーでもありながら四大属性魔法の風魔法を使えるなんて! 君、一体何者?」


 アランは大きな声で笑い、地から足を離す。


「ひ……人が飛んでます……」

「あれ? アイリスちゃん知らない? 飛行魔法」


 どうやら空を飛ぶことのできる魔法が存在するらしいが、アイリスはその魔法を知らなかった。古流魔法で空を飛んでいたが、現代魔法でも空を飛ぶ魔法が存在するらしい。フリードも地から足を離す。


「フリードも飛べるんですか?」

「ああ。……それよりここはいいから塔の守護に行けるか。今誰もいないだろう」

「はい……!」


 ここにいては援護ではなくフリードの足手纏いになるだろう。それに実際オーウェンのもとへユーリたちが向かっているので、守護が手薄なことも事実だ。

 また、実力差もあるのに位置的にも上を取られていることは不利だ。試しに飛行魔法を発動させようとジャンプしたりするが、一朝一夕でできるものではないらしい。現にフリードは口元を押さえてプルプル震えていた。


「笑わないでください!」


 一人でジャンプして飛ぼうとしたことを見てフリードが笑う一方、アイリスは恥ずかしくなるのだった。


「いいや、笑ってなんて……いない……さ」


 顔をそらしてプルプルさせるフリードを見ながらアイリスは手で顔を覆う。


「早く行け」

「はい……」


 話している間にも迫るアランの攻撃からフリードがアイリスを守った為慌ててアイリスは走り出す。目指すは自陣の塔まで。





「へえ。逃がしちゃうんだ。つまんないの」

「不満なようだな」

「まあね。そもそも君がいるチームになんか入ったらせっかくの逸材が潰れちゃうじゃない。どう見ても問題児しかいないし」


 フリードは笑みをこぼし、アランに向けて闇属性の攻撃魔法を仕掛けるが、アランも分かっているように自分の水魔法攻撃で相殺する。


「まあでもいいや。白黒つけようか。どちらが強いかを」


 二人の男の魔法が激突する。どちらともSランクなのでAランク程度に魔法制限がかかっているが、それでも相当な威力同士のぶつかり合いだ。


 アランはフリードへ魔法をぶつけながら苛立っていた。


(本当に嫌になる。ただでさえ魔力以外でも闇魔法の特徴である精神系魔法を制限された上でも俺の魔法と同等。気に入らないな)


 高位魔法である闇魔法は寮対抗戦で精神魔法を使えないよう制限がついていた。


「本当、闇属性魔法なんて嫌いだ」


 アランは一人つぶやく。一方フリードは興味のない様子で聞いている。


「へえ。それって負ける言い訳ってことか。状況は理解しているようだな」

「はあ? 君こそ耳大丈夫? 俺は闇属性が嫌いなだけで君に負けるなんて欠片も考えていないんだけど」


 放たれた闇魔法と水魔法はぶつかり合い大きな爆風を呼び、お互いの魔法は競り合っていた。


 その時アランはふと嫌な予感を感じた瞬間、競り合っている魔法はそのままに、体だけ反らすと何かの魔法が頬を掠め、急いで攻撃された方角へ防御魔法を展開させ、その方角を見ると、そこには空を飛んでいるアイリスがいたのだった。


「うそお……」


 アイリスはアランへ向かって飛ぶ。しかし今は防御魔法も展開させている。Cランクが自分の防御魔法を突破できるわけがないと考えたアランはアイリスをとりあえず放置し、フリードに意識を向けた時、防御魔法に異変を感じた。


「は?」


 アイリスの手が防御魔法に触れるとその部分から防御魔法が解けていく。


「嘘でしょ……」


 防御魔法が解かれたと同時に、アランにとっては馴染みのある気配をある場所から感じた。しかしいきなり周りが煙に覆われ、焦ったアランは競り合っていた魔法を精一杯の力を使って上へ弾いた。


 そして、刀を振った風切り音がしたと同時に周りの煙が晴れ、見知った人間が木の上に立っている様子を確認した後、地面に落ちていくアイリスを見た。


「ゼン。いくらなんでも女の子相手にやり過ぎじゃない? それに彼女はCランクなんだから」


 アランは自分の幼馴染であるゼンを見つめる。


「やりすぎなものか」


 静かに言ったゼン。そしてその腕についている体力ジュエルには僅かにヒビが入っている。


「ゼン!?」

「知っているだろう。俺の斬撃に煙を放つ効果はない」


 アランは慌てて地面に落ちていくアイリスを見る。アイリスはフリードの魔法に守られて地面に着地したようだった。


「じゃあこの煙は……」

「おそらく煙玉の類だろう。寸前で俺の攻撃を察知して避けた上で俺の斬撃に煙玉をぶつけてきた。そして視界を奪った上で回避と攻撃を行った」


 冷静に分析するゼン。アイリスはあのタイミングで攻撃を避けた上で視界を奪い、その隙に乗じて風魔法で攻撃したのだ。

 体力ジュエルを見ると大した威力ではないが、その反射的な対応力にアランはひどく驚くことになる。


「学園の魔力測定器が故障したのかなあ……そもそも魔力だけで人を測ることはもう時代遅れなのかもしれないね」


 アランはフリードがアイリスの元へ行く為地面に降りていくのを見届けると、自分もゆっくりと降りて行った。

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