38 観察と策略
「お前Aランクだろ? 彼女はCランク。そんなことあるのか?」
ヴィンセントはクラークの魔法がアイリスに聞かないことに驚いている。アイリスはCランク。上のランクの魔法は下ランクの魔法師へ自由に魔法をかけられるはずなのだ。
「いや、効かないものは効かないんだって! 幻術に対する魔法防御が張ってあるのか、元々幻術に対する耐性があるのか……」
ヴィンセントとクラークが困惑してアイリスを見る。
(クラーク様の魔法は幻術。でも私には効かない……?)
二人が混乱している中、アイリスは冷静に現状を分析していた。そして秘匿魔法特訓時のことをアイリスは思い出すのだった。
(幻術は脳や魔力、精神に……つまり物理的な攻撃ではなく内部干渉だから効かなかったってこと……? でも……)
秘匿魔法を使った際のことを思い出す。アイリスに対して内部干渉をするには一定以上の魔力を使えば干渉可能。つまりAランクなら強く魔力を使えばアイリスに幻術をかけることができる。つまり今の二人はCランクのアイリスに油断をしているのだ。
(この事実に気が付かれる前に何とかしないと……でもこれはチャンス。あとはヴィンセント様の音魔法がどういうものなのか。そして対抗策を考えないと……)
二人が混乱している間にアイリスはクラークに向かって足を使って攻撃する。ニ人は混乱から油断していたのかアイリスの攻撃を焦って避けるが体勢が崩れ、すぐさまクラークへ追撃しようとする。しかしアイリスの横から魔力を感じ、咄嗟に足へ力を籠める。
目に見えない何か衝撃波のようなものがアイリスのすぐ横を通過する。そして通過したであろう場所を見れば土は抉られ、木は薙ぎ倒されていた。
「!!!」
ヴィンセントを見ると手を合わせている。
(これが……音魔法……)
おそらく掌を合わせた音そのものを絶大な衝撃波に変換した魔法ということを瞬時に分析する。
「あ、危なかった……」
「勘がいいねえ。アイリスちゃん。でも今度は当てるよ」
ヴィンセントはにやりと笑う。目の前には二人。音魔法使いと幻術魔法が使えないと錯覚している魔法師。
(とにかく、一人ずつ確実に倒していこう)
今までニ対一で圧倒的に不利だった状況だったことが実質一対一になった。クラークに気付かれる前に早く状況を打開させたい。
(とりあえず魔法が使えないと思い込んでいるクラーク様から……)
攻撃をクラークに集めることにする。もちろんヴィンセントへの警戒は忘れない。
しかしクラークが不敵な笑みを漏らしたと同時に魔力の気配がし、瞬時に距離をとると同時に目の前に火が現れ、それを咄嗟に避ける。
「火!」
「それだけじゃないぜ」
次は水、風と、四大元素魔法をクラークが発動させ、アイリスはそれをなんとかかわす。
「四大元素の魔法を三つも……」
そもそも四大元素すら希少な魔法だ。それを三種類も使えるなんて聞いたことがなかったのだった。
「あれ? もしかして知らない感じ?」
ポンポンとクラークの手から三つの石を上空に投げ、それをキャッチしている。
「これ、四大元素魔法の魔法石」
魔法石とはその名の通り魔力が宿っている石のことだ。
次は地面が割れ、それも避ける。
「ず……狡いです! そんなポンポンポンポン!!」
「魔法石禁止なんてルールはないぜ!!」
目の前に水が迫り、避けたと同時に今度は横にヴィンセントがおり、音魔法を発動させる。目にも見えない衝撃波がアイリスを襲うがそれも何とかかわす。
「俺の音魔法がこんなに当たらないなんて初めてだな……」
ヴィンセントは驚きながらも楽しそうにアイリスを見る。そもそも音魔法とは、音速の速さで攻撃できるもの。人は音速のものに対応なんてできないはずだ。しかしアイリスにはそれが出来ていた。勿論タネはある。
(私が反応できているのは魔力から魔法に変換されるまでに発生する気配を読んで何とか……でも気を抜いたら絶対当たる)
更には『音』という形のないものだ。回避は至難の業になる。
(なんとか音魔法も避けられるけど連発されたらさすがに……連発してこないのは油断か、できない理由がある……?)
アイリスは息を整えながらこの状況の打開策を考えていた。
(ひとつ分かったことがある。いくら四大元素魔法の魔法石と言っても大した攻撃力はない。むしろヴィンセント様の音魔法の方が怖い。なんとか策を……)
策を考えている時でも魔法は飛んでくる。それを避け、音魔法師のヴィンセントへ攻撃しようとする。
(距離を詰めないと……)
アイリスの攻撃手段は近接攻撃。間合いを詰めなければいけない。しかしヴィンセントの音魔法を避け、間合いを詰めようとしても、別方向からクラークの魔法石での攻撃が飛んでくる。回避はできても攻撃に転じられない。また、回避するにも体力と集中力が必要だ。しかしどちらも無限ではない。
「もう諦めなよ。アイリスちゃん」
目の前には火。クラークの魔法石での攻撃だ。
それによりあたり一面が火に包まれ、そして爆ぜた。
「もうこれで……あれ?」
爆発後の煙が引き、クラークはジュエル破損により腕輪の結界に守られているであろうアイリスに目を向けるが、そこには誰もいない。
「は?」
ヴィンセントも周りを見渡す。
「ヴィン! 上だ!!!」
「…………!!」
クラークの声にヴィンセントが気づくと同時に、跳躍していたアイリスが上空から落下してヴィンセントの首に腕を巻き付けぶらさがる。落下の衝撃と身長差により足が大きく上に振られる。そして大きく息を吸い込む。
「きゃー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
アイリスはヴィンセント耳元で甲高く、大きな声を発して叫ぶ。
「うわあああああああ!!!」
アイリスは瞬時に悲鳴をあげたヴィンセントから離れる。そしてヴィンセントは耳を両手で塞いでうずくまる。
(今しかない……!)
アイリスは離れてすぐに再度上空へ飛びあがり、上空から足を振り上げて攻撃しようとするが、攻撃を与える前にヴィンセントが咄嗟に防御魔法を使う。
「っ!」
防御魔法を力づくで破ろうとするアイリス。
しばらくするとヴィンセントの防御魔法は即席なこともあり、脆く徐々に亀裂が入る。
「ヴィン!」
クラークもヴィンセントのもとへ走り、ヴィンセントの防御魔法を上から覆うように防御魔法で壁を作る。
(この防御魔法をなんとかしないと……)
アイリスは攻撃を止め、両足を防御魔法にのせ、また上空へ跳躍して体勢を立て直す。くるりと回り、手を防御魔法に向けて落下していく。
(上手くいくか分からないけど…………)




