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32 最初と終わりよければすべてよ良し?

「で。授業が終わったらすぐ帰るように言いましたよね」


 寮の共用部分では常識人ユーリが笑顔で仁王立ちになり、オーウェン、ルイ、アイリスは正座をしていた。ちなみにフリードは面白がって見ている。


「オーウェン、常習犯のあなたには特に口酸っぱく言ったはずですが」

「い……いえ……クラスの奴らと魔法勝負していたら面白くなってしまって……」

「このやり取り何回目だと思っているのですか?」

「えっと……」

「三十二回目ですよ。こんなに回数を重ねているのになぜ改善されないのですか。一度頭の構造を覗いてみたいですね」


 小さくなって言い訳をするオーウェンに黒い笑顔を浮かべる毒舌好青年ユーリ。にこやかにお説教をしているのでなお怖い。


「はあ。仕方がありませんね。いつものことなので。で、二人は」


 じろりとアイリスとルイを見る。


「そもそもアイリスが迷子になるからいけないんでしょ」

「だってルイ君が先に行っちゃうから……」

「短いと大変だね」

「……それ足のリーチの話をしていますか?」


 ルイはアイリスを連れて寮に帰ろうとしていたが、気が付いたらアイリスがはぐれて見事に迷子になってしまったのだ。

 それから何とかルイがアイリスを見つけ、ようやく帰れたのだった。


「学園の敷地……広かったな……」


 アイリスは帰りの道中で「ルイさん」とさん付けしたら苦い顔をされ、敬称を変えたら表情が若干マシになり、それでいてルイから何の苦情も言われないため、正式に敬称を変えたのであった。


「アイリス」

「ルイ君」

「この末っ子、ませていやがる」


 フリード、ユーリがニヤニヤし、オーウェンは驚いて二人を見る。


「今日一日で随分仲良くなったようで」


 からかいの視線をルイに向けるフリード。


「違いますよ。色々あって仕方なくこうなったんです」


 心底迷惑そうに視線をそらしながら教室であったことを思い出すルイ。


 一方アイリスは同性の友達に加えてルイとも若干距離が近くなった気がしてルンルンと浮かれていた。


「はあ……俺とのこの差はなんなんだ」


 フリードがふざけて残念そうにぼやく。


「ご自分で自覚があるでしょう」


 アイリスは冷めた目でフリードを見る。


 なによりこの男、つきまといである。そしていくら紳士的でもつかみどころがなく、飄々としている。さらに何を考えているのか分からないのだ。実際クレア村でも目の前の男の手の上で転がされていた部分もある。しかしそれはさほど重要ではなかった。


(なんだかカールと同じような駄目……というか怪しい雰囲気があるんだよね……それに夢のこともあるし)


 昔から見る夢。やはり登場する男がフリードに似ている。だからこそあまり関わりたくはない。しかし不自然な態度もよくないと思いながらもアイリスは物思いにふける。


「アイリス?」

 

 アイリスが難しい顔をして考え込んでいる様子を見てフリードが心配そうに声をかける。


「すみません。何でもないです」


 警戒するべきなのにフリードはアイリスを気遣い、山賊の一件ではアイリスをずっと守っていた。それはまだ出会って間もないはずなのだが、フリードの一貫とした行動だった。


(調子が狂うな……あまり関わりたくないのだけれど)


「いいなあ」

「え?」


 少し不貞腐れた声が聞こえ、振り向くと一人の赤毛の男が両手の指を合わせ、親指をくるくる回していた。


「俺は彼女に名前すら言ってもらってないのに…………」


 オーウェン含めここに立っている男は皆高身長だ。特に赤毛の男、オーウェンは寮一大柄だ。その男が少し猫背になり小さくなっていじけるような様子に、アイリスは少しだけ幼さを感じる。そしてそんなオーウェンを見て慌てて一生懸命目の前の赤毛の男の名前を思い出す。


「オ……ン? さん?」

「温泉?」


 オーウェンも聞き間違いをしているが、確実に名前を覚えられていないことにショックを受ける。


「私は?」


 ユーリがひょっこり会話に入ってくる。アイリスは頑張って思い出す。


「ユ……リ……さん?」

「なんか惜しい気がする」

「あー、この子名前の最初と最後しか覚えていないみたいですよ」

 

 状況を正しく把握しているルイが面倒くさそうに言う。

 実はクラスメイト相手にも同じような現象が起こり、最初と最後の音しかあっていなかったのだった。エレナに関しては初めての同性の友達ということもあり、アイリスの意識に強く残った為すぐに覚えられたのだが、他はそう上手くいかなかった。しかし三十名ほどのクラスメイトの顔と名前を一日で一致させることは酷なことでもある。


「なんでだ!」


 オーウェンが大きな声で突っ込む。


「す……すみません……人の名前を覚えるのが苦手で……」

「まあすぐに覚えられるでしょう。それで脱線しましたが、話を戻してまとめると、ルイがアイリスさんを連れてきたはいいけど途中ではぐれて迷子。結果二時間遅れと。まあ置いて行かなかっただけ及第点でしょう」

「………………………………はあ」


 ルイはため息をつく。


「す……すみません……」


 アイリスは頭が上がらない。名前を覚えられない上、加えて二時間迷子だったなんて。


「ルイ、探知魔法使わなかったのですか?」

「使ったんですけど、捕捉できなくて」

「え」


 驚いた様子でアイリスを見るメンバー。

 探知魔法とは名前の通り対象者の魔力を探知し、場所を特定する魔法だ。


「アイリスさんのランクはCですよ? そんなわけがありえるはずが……えっ」


 魔法は基本ランクが上の者は下の者に自由にかけられる。逆にランクが下の者は上の者に魔法をかけることが難しいとされている。

 今回に関してはランクが上のルイの探知魔法に必ずひっかかるはずのアイリスがひっかからなかったのだ。

 試しにユーリがアイリスに探知魔法をかけるが、気配すら追うことができない。ユーリ本人も驚く。


「それがありえてるから驚きなんだよな」


 フリードがアイリスを見る。フリードはとっくに気が付いていたようだ。


「……あの、私のランク…………」

「もう全校生徒知ってるけど」


 さも当然のように隣にいたルイが言う。


「情報まわるの早いのですね。私のプライバシーはどこに…………」

「アイリス。今自分に何か魔法をかけているか?」


 苦笑いを浮かべながらもフリードに声をかけられ、慌てて首を横に振る。戦闘でもない今の状況で魔法を使う理由はどこにもないからだ。


「そうだよな。そんな感じはしないし。それに…………」

「え?」


 フリードは何かを言おうとしたが、すぐに口を閉じる。


「……ユーリ。そろそろ本題」

「…………たまにはリーダーらしくフリードが引っ張ってくださいよ。……では今回の作戦を決めます」


 不自然に話題を変えたフリード。そもそも今日早く帰ってくるよう言われた理由は、明日に迫った寮対抗戦の作戦を決めるらしい。

 そして進行を丸々ユーリに投げたフリードと、それを仕方ないといった様子でユーリが頷いている。どうやらこれがこの寮では当たり前のことのようだ。


「アイリスさん……すみません。長いので敬称を略させていただいてもよろしいでしょうか」


 アイリスは頷く。


「では失礼して、アイリスは当然ですけど初めてですよね。簡単にですけれどご説明します」


 ユーリはアイリスに丁寧に説明をする。寮対抗戦とは三、四チームが一気に戦う魔法バトル戦だ。場所は対抗戦用に作られた学園の演習場へ移動して行われる。演習場と言っても様々で、山や森、広いエリアでは渓谷等の広い演習場もあるらしい。


 その指定された演習場の中に各チームの塔があり、自分の陣営にある塔を破壊されたら負けだ。一方相手チームの塔を破壊したらポイント入手。早ければ早いほど入手ポイントは高くなり、ポイントの高さで勝負が決まる。


 また、ポイントを競うことになる為、各寮チームで戦闘をすることになり、戦闘不能または三十秒以上気絶した場合特殊な魔法で退場になるとのことだ。


(戦闘不能って何……気絶って何……)

「今回は三つ巴だな。俺らの他に二寮と六寮がいるな」

「絶対負けねえ……」


 苦虫を噛み潰したような顔をするのはオーウェン。


(なんでそんな顔をするんだろう……)


 アイリスはオーウェンの息まいている様子に困惑する。

 

「あー……二寮とは仲が良くなくて……主にオーウェンが。それと……まあ気にしないでください」


 ユーリがアイリスの顔を見て察し、苦笑いしながら補足説明する。オーウェンは二寮を目の敵にしているようだった。

 ちなみにユーリによると二寮のメンバーは三年生と二年生の五人チーム。そして六寮は二年生一人、三年生四人の計五人のチームだ。


「ちなみにオーウェンは二寮を一方的に敵視していますが、向こうはフリードを敵視しているんですよ」

「なんでですか?」

 

 小声で説明するユーリに尋ねるアイリス。

 しかしその時、ぐるぐるぐるぐると突如今の空気に合わない轟音が響き渡る。


(一体何!?)


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