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26 騙されました

「ははっ。元気そうで何よりだな」


 どこからか誰かが吹き出す音が聞こえたが、アイリスはそれどころではなかった。

 

「え? あれ? どうなっているんですか? ここはどこですか? それに全身痛い……」


 起きたら寝た場所とまったく違う場所にいて、さらにフリードと知らない男三人に囲まれていてアイリスはひどく慌てる。


 何が起こっているのか全く分かっていないアイリスは真面目そうな男から状況の説明を受け、とりあえず話を聞くのだった。


(この人……たしか昨日あそこの火魔法を使う人を止めようとしていた人だ……)


 アイリスは説明している男を見て昨日のことを思い出す。


「……ということです。昨日は驚かせてしまい大変申し訳ありませんでした」

「いえ……」


 アイリスは自分の腕を摩りながら状況を理解する。

 昨日部屋の中の惨状に驚いたアイリスは外へ逃げたが、フリードが追いかけて連れ戻したみたいだ。そしてフリードを含めた目の前の四人の男は寮のルームメイトで、ここは寮の自分の部屋ということだった。


「ということで、前にも会っていますが改めまして三年のユーリ・ハルロフと申します」

「前にも……?」

「ああ、失礼しました。この姿では初めましてですね」


 パチンと指を鳴らすと目の前にいるユーリが見たことのある見た目へ変わる。


「クレア村にいた魔法師団の人!?」

「はい。実は魔法師団に変装していたんです。あそこには魔法師団から依頼され、学園の任務として出向いていたんですよ」


 驚いてアイリスはフリードを見る。


(そういえばあの時……半分正解で半分不正解ってフリード言ってた……つまり魔法師団じゃないけど魔法師団からの任務としてクレアにいたんだ。山賊の対処のために)


「あそこの村は魔法を否定的に捉える人が多かったので、学生の身分で行くよりも魔法師団の身として行く方が都合がよかったのです」


 本来ならば王立魔法学園の任務として身分を明かすのが普通だが、クレア村のように過去魔法師に襲われ、魔法に否定的な地域には学生という身分よりも確立された身分の方が動きやすい為、魔法師団等に変装することも多いということだった。


「あ。そうそう。ハルロフではなくユーリと呼んでくださいね。この第三寮ではファーストネームで呼ぶ決まりですので。申し訳ないのですがアイリスさんとお呼びしても構いませんか?」

「は、はい」

「ありがとうございます。改めてよろしくお願いしますね。あと、敬称で『様』等堅苦しいものは使わないルールなので気軽に呼んでくださいね。……で、こっちの硬直している人があなたの全身の痛みの原因ですよ」

「え?」


 ユーリの視線を追うと確かに固まっている人がいた。


(そういえばこの人昨日火属性の魔法を放っていた人……かな? さっきから動いていないけど大丈夫かな……)


 瞬きすらしない男にアイリスは段々心配になっていく。


「あの……」


 戸惑いながらも見つめると男は顔を輝かせながらアイリスを見た。

 

「泣く子も黙るこの力! 世界も驚くこの頭脳! きらめくおれ「二年生のオーウェンです」ちょっ! さえぎらないでくださいよ、ユーリさん!」


 いきなり変なポーズをして何か始まったと思えばユーリの乱入によって唐突に終了した何かに目をぱちぱちさせる。


「ユーリさん! せっかく三週間かけて名乗り方を考えていたのに!!」

「無駄な時間でしたね」


 オーウェンは嘆くがユーリはどこまでも冷静なまま笑顔で応対をする。


「よろしくお願いします……?」

(なんだったんだろう。今の)


 何が起こったのか何が言いたかったのかよくわからなかったが、とりあえず名前だけ知れたのでその他は聞かなかったことにしようと心に決めるアイリス。


「世界も驚くこの頭脳って……確かにあまりのバカさで世界も驚きますよね」


 今までずっと静観していた男がぷぷぷと笑い出す。


「ルイ! てめえ!!」

「オーウェン、落ち着いてください。ほらルイ、挨拶」


 ユーリが今にも掴みかかりそうな勢いのオーウェンを止めてルイに視線を向ける。


「…………」


 ひどく面倒くさそうにアイリスを見るルイ。


「ルイ・カーヴェル。アンタと同じ一年。あんまりよろしくする気はないけどよろしく」

「あ、はい」


 どうやらアイリスに良い印象がないのか、はたまた面倒なのか分からないが、不満気なルイにとりあえずお辞儀をする。


(できれば仲良くしたいけど…………)


「で、紹介はいらないだろうけど彼がこの第三寮のリーダーです」


 ユーリがフリードを見る。

 

(この人がリーダーって…………この寮大丈夫なのかな…………)


「ん?」


 フリードが静かに笑みを浮かべている。何か話したらたちまち思考を読み取られてしまうような気がするアイリスは笑って誤魔化すことにした。

 

「いえなにも。おほほほ」


 変な笑いで誤魔化したアイリスは再度周りに目を向けるとユーリがこっちを凝視していた。


(なんだろう……)


 戸惑いながら視線を左右に揺らすとユーリが「すみません。なんでもありません」と言った。


(全然何でもない感じじゃないけど…………あ、大変! 私が名乗っていないからだ!)


 事前に聞いていたのか普通にアイリスの名前を呼んでいたため、自分で名乗っていなかったことに気がつかなかったのだった。


(大変な粗相を……!!!)


「あの! ご挨拶が遅くなり申し訳ありません! アイリス・セレスティアと申します。よろしくお願いします。スリーサイズは上から「うおおおおおお!!!! 何言っちゃってるの!?」え?」


 アイリスの言葉をさえぎって顔を真っ赤にさせて大きな言葉で叫ぶオーウェン。


「あれ? 外の世界では自己紹介とともに自分のスリーサイズを伝えるものってカールからの手紙に……」


 昨日ランスロットから渡された手紙を出すとやはりそう書いてある。しかし周りは盛大に驚いていることに首をかしげる。


「いやいや、どこの国の常識だよ!!!」

「違うんですか?」


 アイリスはほかの人たちを見たが、全員が頷いた。


「ほら。やっぱりまともじゃなかった」


 ルイは諦めた様子でアイリスを見る。


(まともなはずなんだけどな…………)


 少ししょぼんと落ち込みながらもう一度カールの手紙に目を落とす。


「それ、いいか?」

「え?」


 フリードが手を出したので手紙を渡す。フリードはしばらく表裏をパラパラと見る。


「ふっ、なるほど」


 僅かに口の端を上げるフリード。ユーリもひょっこりと手紙を見ると少し優しい顔をした。


「あの…………?」

「なんでもない。ほら」

(この手紙のどこに面白い要素があるんだろう……)


 ふざけきった文面とフリードとユーリの表情があわないような気がするが、理由は分からなかった。

 そんなことよりも重大な問題に直面していた。


(名前が覚えきれません…………!)


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