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24 食べ物の恨みは恐ろしい

 アイリスが部屋に来る五分前。


 第三寮の男性陣四人は新たに寮に加わるアイリスのための歓迎会の準備をしていた。


「じょ、女子が! 女子が来る! 緊張してきた……」

「ほらオーウェン、口ばかりじゃなくて働いてください。はい、この料理も持って行って。」

「は、はい!」


 オーウェンと呼ばれた男は慌てて差し出されたお皿を手に乗せる。

 

「ルイも。さぼっていないで働いてください」

「分かっていますって」


 この寮メンバーは全員がマイペースなこともあり、一人がまとめようとしてもまとまらない個性的な寮だった。 そして机に料理を運んでいる時に事件は起きた。


「さすがユーリさん。美味しいですね」


 パクリ。

 一人から揚げをつまみ食いした人間がいたのだ。


「ルイ! 俺ずっと我慢していたのに……ずるい!」


 実は先ほどまでそわそわしていながらも手伝いをしていた男はどうやらつまみ食いを我慢していたらしく、堂々とつまみ食いした男に文句を言う。


「俺も食べる!」

「待ってください、オーウェン! あなたが食べたら全部なくなるでしょう……」


 堂々とつまみ食い宣言をし、唐揚げに手を伸ばす男、オーウェン。それを止めようとしている男が一人。

 そんなやり取りの隙にどさくさに紛れてさらにもう一個つまみ食いをしようと手を伸ばす男。


「あー! ルイ! ずるい!」


 ここでつまみ食いし損ねたオーウェンが叫びだし、から揚げを守る為に火魔法を発動するオーウェン。

 そして結果的にオーウェンの魔法が飛び交う修羅場となることになるのだった。


「ちょっと……! 部屋が壊れます! それに今アイリスさんが来たらどうするんですか!」


 サプライズで歓迎会を準備しているため、チームで唯一の常識人の男、ユーリは新しく寮に加わるアイリスにこの現場を見せないために急いで結界魔法を張り、そして蔦の魔法でオーウェンを止めようとする。

 ちなみにから揚げをつまみ食いした男、ルイは騒いでいるオーウェンとユーリから離れた場所に避難しており、そっぽを向いている。その様子にオーウェンの怒りはさらに濃くなっていく。


 そんなやり取りをしている中、控えめなノックの音に部屋にいた男たちは気が付かなかった。

 しかし結界を張った常識人の男、ユーリは自分で張った結界に違和感を覚えた。


「オーウェン、落ち着いてください!」

(今結界が……?)


 そしてガチャリという音と共に少女が顔をのぞかせる。

 オーウェンを止めながら少女を見る常識人の男、ユーリ。

 修羅場から一人離れた男、ルイは勿論少女が顔をのぞかせたことに気が付き、少女を見る。


 少女は部屋の中の様子と突然目の前に飛んできた火の魔法を避けながらも驚いたのか固まっている。そして目が合ったルイに会釈だけして真顔でドアを閉めたのだ。


 ドアが勢いよく閉じた音で少女の存在に気が付くオーウェン。


「あれ……もしかして今のちっこい子がアイリス・セレスティア…………ちゃん!?」


 つまみ食いし損ねた男であり火魔法を放っていたオーウェンが目をキラキラと輝かせながら聞く。


「思いっきり引かれたじゃないですか。とにかく追いかけないと」


 常識人の男、ユーリが慌てて身に着けていたエプロンを外す。


「もうフリードさんが追いかけましたよ」


 修羅場から避難していた元凶の男、ルイが言う。


「フリードなら…………大丈夫かな。とりあえずこの部屋をなんとかしないとですね。ルイも手伝って」

「えー」


 修羅場から離れていた男、ルイは嫌々に寄りかかっていた壁から背を離すのだった。



 

 ***


 アイリスは何も考えずただひたすら走り、最終的に足を止めたところは湖だった。

 この学園は敷地が広く、自然豊かなため、なぜか湖も普通にある。

 そして一日でいろんなことがあった今日はすでに日も沈み、夜になってしまっていた。


「こんなことで明日から大丈夫かな……」


 アイリスは一人、湖の近くに座りながら不安になっていた。そもそもカール以外人と長く関わったこともないのに、背が高い男が謎に暴れている現場を見てしまったこともあり、自分がこれからここでやっていけるか自信を無くしていたのだった。


「というか……ついドア閉めてしまったけど、部屋に行かないと制服とか教材が取れない…………というかみんな巨人…………」


 背の高い男たちが争っていたさっきの惨劇を思い出し、あの部屋に近寄りたくないと思ってしまったアイリス。


「霊山に帰ろうかな。いや、ブラックリストにのるのはまずいよね……でもこの学園広いし生徒が一人野宿していようが問題ない気がするな……」


 今まで山で過ごしていたアイリスは毎日が野宿だったため、野宿に抵抗はなく、むしろ現実味を帯びていると感じていたのだった。


「そうと決まればとりあえず明日……あの人たちが起きないうちに部屋に入って…………色々持ちださないと……………………」


 明日からどう自分が行動するのか指針を立てる。


「まあなんとかなるよね! ブラックリスト入りも回避できたことだし! ……そういえばカールからの手紙は何だったんだろう……」


 先ほどランスロットから渡されたカールからの手紙。読むことを先送りにしていた手紙を取り出して中身を見るが、いつも通りふざけた文章で身になることは一切ない。手紙を破り捨てようとするがとある一文が目に留まった。


「自己紹介の秘訣?」


 内容を一読すると手紙をポケットにしまう。

 ひと息つくと疲労が全身を襲ってくる。夜だったことや、風と湖の水の音が心地よく、アイリスはそのまま寝てしまったのだった。




 ***

「随分無防備なお姫様だこと」


 彼女の影から一人の男が現れたのを彼女が知ることはなかった。


「ほら。また会えただろう?」


 先ほどアイリスはなるべく部屋の中を見ないようにしてドアを閉めたから気が付かなかった。

 クレア村で一緒にいた人間を。

 

 そして男はゆっくり彼女に腕を回して横抱きにし、その場を後にしたのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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