22 不審者に判別されました
「ようやく…………着きました……!!」
チャーリーのおかげで無事王都へ着いたアイリスはお礼を言い、去っていく彼を見送った。
チャーリー曰くモニカから預かった迷子防止用縄を使うことがなくてよかったと笑っていたが、アイリスは言葉を失うのだった。
気持ちを切り替え、目の前には指定の路地。ここは学園の入り口に繋がっている。
細い路地を進むと小さな門が現れる。しかし門の先は壁がある。つまり行き止まりだ。
アイリスは門の前に立ち、ランスロットから渡されていた学生証に自分の魔力を込め、所定の場所にかざすと目の前に扉が現れる。
そもそも王立魔法学園は王都の中にあるが、学園の存在を特殊な結界で隠している。そういう点では霊山と似ている面もある。
そのため、一般人は王都に王立魔法学園があることを知ってはいるが具体的な場所は分かってはいない。場所は学園関係者や教師、生徒しか分からない。
そして扉を開くとそこには自然豊かな広い土地と建物が並んでいた。
「わあああ! きれい!」
アイリスが王立魔法学園に入学することを決めて山を降り、世界に一歩踏み出したときの感動とはまた違う感動。王都の様子とはまた違い、一瞬で世界が変わることへの驚きと美しさに胸を躍らせるのだった。
そしてわくわくしながら一歩踏み出すが慌てて立ち止まる。
「っと……違う違う! 探検する前に学園長室へ行かないといけないんだった!!」
ランスロットが来たあの日、彼の手を取り、山を下りる決断をしたアイリス。ランスロットはアイリスに学園へ着いたら学園長室に行くよう言っていたのだった。
そしてアイリスは見えた建物に向かって一歩踏み出したのだった。
「ここは……どこですか……」
お決まりのような展開に足を止めるアイリス。敷地内ということは分かっている。部屋がありそうな建物の前にいるがどの建物なのか、はたまたここでいいのか分からなくなった。
途方に暮れたアイリスはランスロットからもらった二枚の地図うちの一枚を出した。
一枚は霊山から学園の扉までの役に立たなかった地図。もう一枚は扉から学園長室までの地図。
学園長室までの地図を見ると「ここ!」と大雑把に書かれているだけである。
「どうしよう…………!」
迷宮のようになっていた建物からふらふらと出てしゃがみこんでしまうアイリス。
「はあ……うーん……どうしよう……そもそもブラックリストの宣告を受けたら即逃げる予定だし……逃げ道を確保する為にもある程度この学園の土地勘を持っておきたいけど……」
そもそも目的地にすら辿り着けないのに逃げ道や土地勘を得ることなんて当然のように難しいだろう。
「はあ……」
「おい」
背後から低い声が聞こえ、振り返ると一人の男が後ろから威嚇するように立っていた。そして腰に携えている剣に手を添えている。
「何をしている。もしや不法侵入者か」
「え?」
(……剣!?)
鋭い目をした男は剣を抜こうとしている。
「ちょっとちょっとー! なんでいきなり女の子に剣を抜こうとしているの!」
新たに男が現れ、剣を抜こうとした男を宥めるように言う。
(なんだろう…………胡散臭い…………)
剣を抜こうとした男は厳しい顔をしたいる。対照的にもう一人の男はヘラヘラと笑みを浮かべ、アイリスを探るように見てくる。
「曲者だ。アラン」
「だとしてもこれは流石に……どうせ何も話を聞いていないんでしょう?」
苦笑いを浮かべながらアイリスを見る男。
「一瞬の油断が命取りになる」
「もう……相変わらず頭が固いな。確かに特殊な魔力をしているよね、この子」
二人の男がアイリスを見る。
「あの……私、アイリス・セレスティアと申します」
ずっとしゃがみ込んでいたアイリスは立ち上がり、礼儀正しく淑女の礼をする。
完璧に不審者扱いされていることに気が付いたアイリスはとりあえず挨拶をしようと考えたのだ。
「アイリスちゃんって……まさか!」
何かを思い出したようなヘラヘラした男。そしてもう一人の男は剣の柄から手を離す。
「すまなかった。編入生とは知らずに淑女に剣を抜きかけた」
腰に剣を刺していた男は綺麗な姿勢で頭を勢いよく下げる。どうやらアイリスがこれからこの学園の生徒として加わることを知っていたかのようだ。
「いえ、大丈夫です! あの、頭を上げてください!」
両手を横に振ると漸く頭をあげる男。そしてゆっくりと目が合う。
「お前……」
「え?」
男が驚いたように目を見開く。しかしその意味がわからず首を傾げるアイリス。
一方、もう一人のヘラヘラした男も「ごめんね」と言う。
「本当にごめんね! 一応校則で学園内は制服を着る決まりなんだ」
制服を着ていなかった為、不審者や不法侵入者扱いをされたらしい。しかし制服はまだ支給されていなかったこともあり、アイリスにはどうすることもできなかった。また、フードを深く被っていることもあり、不審人物感が増したのだろう。
「それにしても転入生の報告受けたのは三週間前だったからすっかり忘れていたよ」
ぎくりとしながら視線を外す。既にそんなに経っていたことにも驚きと同時に『ブラックリスト』という単語が頭に浮かぶ。
「俺はアラン・ガーフィールド。ねえ君、俺の寮に入らない?」
「え?」
「男ばかりでむさ苦しいし、君みたいな子が入ってくれるなら大歓迎だよ!」
「えーっと…………」
話がよく分からず戸惑うアイリス。
「やめろアラン。彼女が困っているだろう」
「えー? だってどうせ寮に入るんだから今から勧誘しないと!」
「だとしてもだ。そもそも俺たちの寮は既に五人揃っているだろう」
「それなら特例として……」
「うるさい。………………アランが悪かった。俺はゼン・アルバーンだ。よろしく頼む」
どうやら剣を腰に携えている男がゼン。ヘラヘラした胡散臭い男がアランというらしい。
「こちらこそよろしくお願いします。あの……寮ってたしか……」
「寮とは……」
ゼンいわくこの学園は寮制であり、いくつかの数の寮が存在している。一つの寮は五人制で、その五人で生活及び任務を行うことになるという。霊山で説明していたランスロットと同じような説明だった。
「なるほど…………」
「確かに五人は規則だけど、規則は時代にあわせて改変しなきゃ! せめて特例を作るんだ!」
「しつこい。行くぞ」
ゼンはアランの首根っこを引っ掴む。
(すごく勧誘されたけど、もしかして気の合う友達がいない……とか?)
アイリスはぼんやりとそう思いながら、ゼンがアランをズルズルと引きずってどこかへ歩き出す様子を見る。
「痛い痛い!」
「なら自分で歩け」
そんな言い合いをしながら歩いていく。その様子を呆然と見ながらふと我に返った。
「あの!」
アイリスの大きな声で二人は振り返ることになった。
***
「え! キミ迷子だったの? もう! 言ってくれればどこにでも連れて行ってあげたのに」
「えっと……あり、がとうございます……」
それから事情を話して学園長室へ案内してもらうことになったアイリス。それにしてもアランは胡散臭い。
「すぐに気づかなくて悪かった」
「あ、いえ。むしろ本当にありがとうございます。実は私ルーナ村という王都まで三週間かかってしまう辺境の地に住んでいまして……あげく学園の扉から学園長室まで場所がよく分からなくて……だから感謝しているんです」
「「三週間……」」
ゼンとアランの声が重なる。
アイリスはクレア村からの移動時間も含めると結局三週間さ迷っていたことになる。
聞いたアランは笑うのを我慢しようとしているが、結果的にお腹を抱えて笑ってい始めている。
「おい。セレスティアは真面目に言っている」
ゼンがアランを睨みつける。
「ごめんって! ぷぷぷ」
ゼンはため息をつく。アランのことは諦めたらしく、アイリスを見た。
「なるほど。それで三週間の遅れが生じていたわけか」
「はい……」
アイリスは下を向く。
「わざとではないのだから仕方ない」
「はい……」
ゼンは慰めてくれているのだろうが、なんだか申し訳なくなってしまう。
一方アランはまだ笑っていた。
「おい」
ゼンが厳しく言うが、やはり止まる気配はない。
「だって、ルーナ村からここまで近い……というか王都の隣なのに三週間迷子って…………」
笑いが止まらないアランにアイリスはムッとする。
「…………道はつながっているもん…………」
ボソッと言うアイリス。それに対して「かわいい!」「うるさい、近づくな」という言葉がアイリスの耳に聞こえた気がするが、恥ずかしくて何を言っているのか頭に入ってこないのだった。
「ここが学園長室だよ」
部屋の前まで案内してもらったアイリス。ずっとうろうろしていた時間が嘘のようにあっという間に辿り着き、感動する。
(そういえばカールが道に迷ったら誰かに聞けって言ってたな。親切な人で良かった)
「ありがとうございました。お二人とも」
「当然のことをしたまでだ」
「あ、そうだ!」
アイリスは思い出してアランを見る。
「同じ寮……というのは難しいかもしれませんが、気の合うお友達はきっとできると思いますよ!」
「え?」
アランは目をまるくしている。
「大丈夫です! 今はお友達がいなくとも自然にできるってカールが言っていましたよ」
「いつの間にか俺友達いない設定なの!? なんで!?」
アランは大きな声で嘆く。ゼンは小さく吹き出している。
「お友達がいないから私を寮に誘ってくださったのですよね。大丈夫です。少なくとも私にはアルバーン様と仲良く見えますから」
「え!? どうしてそうなっちゃうの!? それにゼンと仲良しに見られても嬉しくないから! ちょっ、そんな可哀そうなものを見るような目で見ないで! ゼンも笑っていないで誤解を解いてよ!」
「ふっ……確かに俺もお前と仲良しだなんて言われるのは癪だが、セレスティアは学園長室に用がある。行くぞ」
「え!? ちょっと待って! せめて友達がいない誤解を解かないと!」
ゼンは一つため息をついてアランを引きずっていくのだった。
「仲良し……なんだよね?」
嵐のように去っていった二人を見送るアイリス。
(それにしても二人ともすごい魔力の持ち主だったな。特にあの胡散臭い方……そしてもう一人は相当戦闘慣れしている……)
ここまで連れてきてくれた二人のことを考えたが今はそれどころではない。ブラックリスト入りの危機に直面しているのだ。
アイリスは気持ちを入れ替えるように深呼吸をする。
そしてドアを三回叩き、「どうぞ」という声が聞こえたのでドアノブに手を触れた。
***
「あの子可愛いし、すごく不思議な魔力を感じたね」
アランは廊下を歩きながら先ほど出会ったアイリスを思い出す。
「不思議というか、清浄。だな」
「ね。どんな魔法使うんだろう……次の寮対抗戦楽しみだな。やっぱり俺たちの寮に来ればよかったのに」
「そんなことしたらアイリスに苦労をかけるだけだろう。そもそもこっちはもう人数が五人だ」
「でもー! って……あれ? ゼンがファーストネームで呼ぶの珍しい」
「な……! 口が滑っただけだ」
そっぽを向いて歩く速度をあげるゼン。
「待ってよー!」
ゼンを追いかけるアラン。
(それにしても彼女、どこかで会ったことがある気がするんだよな。覚えていないけど)
「お近づきになりたいな」
アランは後ろを振り返るのだった。




