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発見

早朝、宿屋を立ったライナは、自身も昔何度も訪れた馴染み深い学校を尋ねた。サイ国最大の学園、ビーグル高等学校だ。

職員とも顔見知りだったため、久闊を叙するのに少々時間がかかったが、昔通った学校が今どうなっているのか探索したい旨を話すと快く受け入れられた。そして、ライナは学校の三階、自身が昔根城にしていた研究室を訪れた。


「懐かしいわね。昔はよく皆で集まって昼食を食べたわ。まさかあの時のメンバーが魔王を倒すなんてね。人生分からないものだわ」


ライナはカイ国の出身であったが、サイ国最大の学校であるこの場所には交流会などの行事で月に2回は訪れていた。勇者たち一行はもちろんのこと、時代に名を残す英雄は皆この学校出身とされる。優秀な人材を一か所に集め、能力の高い教師と学ぶことに適した環境で育成を施すのがこの世界の慣習であった。


「私とブラ、ソウカとテン。4人でよく昼食を食べたものだわ。学校の授業は時に厳しかったけどこの場所があったおかげで最後までやり切ることができた。テンは一個下でソウカは転校してきたから最初はいなかったけど、あの時のことは今でも忘れない。さて、思い出に浸っている時間もないわ。早い所手がかりを探してしまわないと」


ライナがこの場所に来た理由は、思い出に浸るためではなく転移魔法の手がかりを探すためだ。リオの著書を読み違和感を感じたライナはサイ国でも一番魔法の扱いに長けた人物が多い学校を訪れる必要があった。何しろこの場所は大陸最大規模を誇る魔法使い御用達の学校。転移魔法のような複雑極まりない魔法を使うことができるのはこの学校に通う学生及び卒業生、教師等の関係者としか考えられない。


「まぁたまに突然変異でリオ先生みたいな次元の違う最強魔法使いも生まれるんだけど。そういうイレギュラーを探ればキリがないし」


とにかくだだっ広い敷地を持つ学校内をくまなく探索していたライナだったが、歩いていると今まで香っていた魔力とは異質の匂いが発生する部屋を発見した。その部屋はありふれた教室のようで、誰にも使用されていない雰囲気もある独特のオーラを放っていた。ライナは他の部屋と何も変わりませんよーという主張を全身からしているような空気を感じ取った。殆どの人間はその部屋にも気づきもしないだろうが感知魔法のエキスパートであるライナは選球眼に優れた人物でもある。


「何この匂い。魔族たちとの戦いでもこんな強烈な匂いを発生させている者には見たことがない。でも様々な魔法を織り交ぜて巧みにカモフラージュさせている。私みたいに魔法を感知する能力に長け、尚且つ経験値も豊富な魔導士でしかこのトラップは見抜けない。ここに何があるの」


部屋に近づくと更に強烈になる異臭とそれを巧妙に隠す手口にたじろいだライナだったが、勇気を出し狭く埃がかった部屋の重い扉を開けた。ギ―と鈍い音を立てて開く扉からは数年使用されていない趣があった。


「この部屋、大半の人からは見付からないよう隠密魔法も掛けているわね。それもバホマが使うような高レベルの。これは普通の人では見つけられないわ」


ライナは疑問を感じていた。魔法だけでなく、部屋自体を隠す徹底したやり口。感知魔法を極めたライナ以外の人間でこの部屋を見つけることができるのはおそらくいない。他の勇者でも厳しいだろう。それほどまでの高レベルな隠密魔法を何重にも掛けることができる者がこの世に何人もいるとは思えない。いくらこの学校が高い能力を持つ者が集まる場所とはいえ、これだけの複雑で難度の高い魔法をかけるには並外れた技術が必要だ。それこそ、勇者のような。


「いえ、まだ分からない。数は少ないとはいえ教師の中にはこの魔法をかけることができる人はいるでしょう。でも……」


話しながら心の奥では納得ができていなかった。確かに教師の中には魔族たちとの戦いの経験がある猛者がある程度は存在している。ただ、その誰もがこのような隠密魔法を専攻している訳ではないし、年をとった彼らにこれほどの精度の高い魔法陣を組み上げられるとは思えなかった。


そして、ライナは部屋を探る。本心では見つけたくなかっただろう。何かが壊れる予感がしていた。とても大切な何かが。だがその一方で理解してもいた。この匂いを放つ魔法陣は、最近読んだあの本に書かれていた。匂っていた。香っていた。使ってはいけない禁術の香りが七輪で炙られる炭のように。


「あの魔法が、使われた。」


その事実にライナは気付いた。もしかしたら事前に察知していたのかもしれない。ライナは吸い込まれるように食器棚の裏に隠された転移魔法陣を発見した。すぐ前に読んだ本に書かれていた陣だ。記憶の間違いようがなかった。衝撃の事実に目を白くしたライナはその後諸々の調査を済ませ、学校を経った。


後日、ライナは勇者たち7人にカイ国の王宮地下の会議室に来るよう渡り鳥で招集をかけた。その際、誰にも他言してはならないと注意書きを付した。


5日後、魔王を倒した英雄7人がひそかにカイ国王宮地下に集まった。

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