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エピローグ

 魔王を倒した一か月後、魔王の撃破に貢献した勇者たちは、カイ国の王宮の中でも一番広い部屋である「王の間」に集められていた。


「論功行賞だか何だか知らないけど、何で私たちサイ国の人間がわざわざカイ国まで行かないといけないのよ」

「そんなに怒るものじゃないよ、ブラ。カイ国の王様がせっかく僕たちを呼んで表彰してくれるんだ。厚意はありがたく受け取らないと」

「ソウカは優しすぎるのよ。褒めたいのならカイ国が私たちの国に来るのが筋じゃないかしら」


ブラと呼ばれた少女をソウカと呼ばれた少年が窘めている様子は、魔王を倒した英雄とは思えないほど庶民的であり、学校の休み時間に学生が騒いでいるような牧歌的な光景だった。


「我らカイ国の長はお忙しい方だ。一兵士と王を同列に扱うなよブラ。魔王を倒したとはいえ、王と我らの立場は違う。それをゆめゆめ忘れるな」


ブラの愚痴を窘めたのはザム。黒髪糸目の戦士だ。芯がぶれない佇まいから歴戦の猛者の風格を醸し出している。


「その立場による差別をなくすために私たちは命を賭して戦ったのよ、ザム。変なお説教はやめてちょうだい」

「我は身分制度撤廃には反対だ。貴族、平民、王族。この壁を取り除けばどうなると思う。財産を没収された貴族は怒り、王族への尊重を忘れた平民は増長し、本来国を引っ張るべき王族は使命を全うすることができなくなる。身分制度の存在が国家を国家たらしめているのだ。我が貴様ら(サイ国)のような甘ったるい連中と組み戦ったのは魔王討伐のためにすぎん。それをゆめゆめ忘れるな」

「ゆめゆめゆめゆめうるさいわね。なら一生ベッドの上で夢でも見てなさいな。その身分制度があるせいで差別やいじめがあるんでしょう。あなたのような王族には分からないかもしれないけどね、平民から成り上がった私にとって身分制度は苦しみの代名詞よ。そうやって自分と違う考えを排除して私に意見を押し付けるのはやめてくれない?」

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて……」


ザムとブラが議論を白熱させ、ソウカが窘める。他の勇者がその様子に口出しをしなかったのはその光景が日常茶飯事だからだ。魔王を倒すまでの一年半、勇者たちは行動を共にしていた。カイ国とサイ国の二国は特性が全く異なり、理解し合うのは困難を極めた。勇者たちの年齢は大半が十代後半。国から選ばれた戦闘力の高い者たちとはいえ、生まれ育った環境、身分、性別諸々全く違う若者が、いつ襲われるか分からないストレスフルな環境で団体行動をすれば衝突が生まれるのは明白だった。

そんな彼らも、旅を進め、同じ飯を食い協力して敵と戦うことで確かな絆が生まれたのだ。(喧嘩はしているが……)


「ねぇ、見てるだけじゃなくてみんなも止めてよー」

収まらない二人の口喧嘩を見かねたソウカはそれを見ていた四人の勇者に助けを求めた。


「いつものことでしょう。放っておきなさい、ソウカ。殴り合いに発展させるほど二人とも愚かではないわ」

彼女はライナ。感知魔術を得意とする一族に生まれ、魔法学校で研鑽を積んだカイ国の女性だ。彼女の感知魔法によって奇襲や闇討ちを避けた勇者たちは脱落者を出さずに冒険を有利に進めた。


「夫婦喧嘩は犬も食わないってね。ここは傍観するのが一番でショ」

チャラついた見た目で軽く返答したのはバホマ。カイ国の魔導士兼暗殺者であり、魔族との戦いでは高い機動力と高威力のステルス魔法を駆使し、奇襲部隊として魔王軍討伐に貢献した。


「元気があれば何でもできる。多少の喧嘩は元気な証拠。なに、周りに迷惑を掛けるようであれば俺が殴ってでも止めるさ」

彼の名前はサーヘッド。一同の中でも一番の巨体をもつサイ国の戦士だ。魔法を使わず、肉体のみでの戦いをモットーとしており、高いスタミナとパワーで敵をなぎ倒してきた。見た目に反して頭脳に優れているのも特徴だ。


「ザムとブラっていつも仲悪いわよね。戦闘の相性は結構いいのに」

彼女はテン。独自に考案した特殊な戦闘方法で敵を混乱に陥らせたカイ国きっての天才少女であり、一同の中でも最年少の十六歳である。ちなみにすこぶる美人だ。


「もうー、ほら、喧嘩をやめて二人とも」

「バーカ。べーだ」

「愚かなのは貴様の方だ」

「いつまでやってるのよ」

「王様まだかなー」

「ははは、騒がしくて素晴らしいな」

「もう少し静かに待つのはできないのかしら」


荘厳な王宮の中に集められた七人の勇者。多少の衝突はあっても仲の良い彼らに待ち受けるのは吉報か凶報か。激しい戦いを終えた彼らの最後の戦いが、今まさにこれから始まる所だった。

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