最終決戦
魔王は自爆した。
カイ国とサイ国。大陸の東と西に位置する二つの大国が要請した勇者連合軍の侵攻により、長らく人類を苦しめた魔王軍は壊滅した。魔王の幹部は全員一癖も二癖もある難敵であったが、長年研鑽を積んだ勇者たちのチームワークと戦闘力に惜しくも敗れていった。
そして最終決戦、魔王と勇者たちの死闘は壮絶を極めるものであった。
「よくぞここまでたどり着いた。勇者たちよ」
「魔王よ、お前はなぜ人間を苦しめる」
「それはこちらの台詞でもある。もとはといえば貴様ら人間が俺たちを迫害してきたのだ。姿形が違うからという理由でな。文句を言うべきなのは本来こちら側であろう」
二メートルはあろう巨体と膨大な魔力、圧迫感のある真っ赤な肌と白い角。そして全身から漂うオーラに勇者一行は気圧されていた。その中で、一人の勇者が声を上げた。
「■の故郷も昔は差別や争いが絶えない世界だった。だが、今では緩和され身分の違いもなく平和に暮らしている。問題がなくなったとはいえないが、昔と比べて理不尽に血を流す国民は減っただろう。争いで解決するのはよせ。それでは何も生まない。話し合おう。そのためにここまで来たんだ。」
勇者の綺麗事ともとれる発言に、頭に血が上っている魔王が応じるはずがなかった。
「ふざけるな。何が話し合いだ。貴様らが同胞を殺したんだろう。争いを仕掛けてきたのはお前たちの方だ」
魔王の発言に対し、タダで納得できるほど勇者たちも冷静ではなかった。
「それはあなたたちが人間を襲うからでしょう!」
「あれは苦渋の決断だったんだ。そうしなければ■たちが死んでいた!」
「■は争いが止まれば何でもいいわ」
「もういい。お前たちが俺を殺せば魔族は消え、人間に一時の平穏が訪れるだろう。だがタダでやられる魔族ではない。今は力を失った魔族も必ず復興し、人間に復讐を誓う。来い、宿敵ども!!!」
戦いは激化した。
人数差のある戦いだったが、魔王の力はすさまじく、勇者たちの一人でも欠けたら均衡は崩れただろう。しかし、戦いの中で積んだ経験値を活かし、巧みな連携の波状攻撃で魔王を追い込んでいく。力だけでなく知恵もあった魔王は勇者たちの連携を崩すため、俊敏に動き回ったが着実に追い詰められていき、一人の勇者にマウントをとられていた。
「さすがに、俺一人で貴様ら全員に勝つのは厳しかったか。仲間がもう一人いれば結果は変わっただろうがな」
「勝因は仲間との絆だなんて言うつもりはない。お前が負けたのはたまたまだ。■たちの誰か一人がこの戦いに参加していなかったら。お前の仲間が一人でも生き残っていれば。……■がこの世界に召喚されていなければ。この戦いはお前の勝ちで幕を閉じていた。だが、これが結果だ。安心しろ。生き残った魔族は迫害させない。ここからが本番だ。差別もなく、血で血を洗う争いもない世界を完成させてみせる。」
召喚という聞きなじみのない単語に疑問を持つほどの余裕は魔王はなかった。その言葉を話す時だけ、仲間に聞かれないよう小さな声で話した意図を探る余裕もなかった。勇者の決意表明とも受け取れる言葉を聞いた魔王は息も絶え絶えに勇者に一言尋ねた。
「お前の、故郷のようにか」
遺言にも等しい魔王の言葉に勇者は「あぁ」と力強く答え魔王に爆発魔法を唱えた。
勢い良く弾ける爆炎。放たれた真っ黒な煙が晴れた時、魔王の姿はなかった。
「ようやく、終わったのか」
「いや、始まりだよ」
「まだ生き残りがいるかもしれないしね」
「まぁそれもあるけど、それだけじゃなく、ね」
「とりあえず帰ろう。戦いが終わってお腹も減っただろう」
この日、人類と魔族の長きにわたる戦いは一応の決着を迎えた。