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7.ニアの楽しいパーフェクト“魔術”教室

 魔力があると分かり、魔力の流れを学んだ俺は今度はニアが言っていた火属性の“魔術”について教えてもらうことになった。


「でも私、そこまで覚えてない」

「それでも教えてくれるだけありがたいよ」

「ん。……じゃあちょっと待って」


 ニアは森の方に左手を向けた。すると地面から分厚そうなデカい氷柱がにょきっと生えた。


「あ、忘れてた。“魔法”と“魔術”で違うのは、“魔法”は()()()()で補完するの。でも“魔術”は唱えるだけ。ただ慣れたら無詠唱で、こんなかんじ」


 そう説明しながら風を氷柱に向けた。ビュォウッと音が聞こえた瞬間には氷柱にぶつかる音が間髪入れずに響く。

 威力を抑えていたのだろうけど風圧で土煙が上がって、収まったところ、氷柱は無傷だった。


「今のはどういったイメージ? でやったんだ?」

「んーと、アレが割れない程度だけどそれなりにおっきい風をえーい……?」

「なるほど分からん。けど分からんことが分かった」


 ニアは恐らく、頭の中に描いてるものを説明するのが苦手なんだろう。

 だからなのか見て覚えろみたいな感じがする。


「それで、火属性はどうやって出すんだ?」

「えーと、私に続けて言って?」

「お、おう。分かった」


 ニアはじっと見ていたので頷いてみせると、氷柱に右人差し指と目を向けて詠唱を始めた。


「【火よ、矢となり、敵を穿うがて】──〈ファイア・アロー〉」


 人差し指の指先に陣が浮かび、そこから細く火が伸び、矢の形状になっていった。


「───【撃て(フォイア)】」


 そう静かに告げた瞬間、真っ直ぐに氷柱へと火矢が飛んでいく。氷柱にぶつかった火矢は衝突箇所に突き刺さったまま燃え尽きた。


「こんな感じ」

「……いやいやいやいや、待ってくれ」

「…………?」


 いや、そんな可愛らしく首傾げなくて良いから!


「詠唱ってそんなに長いのか?」

「……ゆっくり言ったからそう感じるだけ。これで短めに言ったよ?」

「マジで?」

「まじ」


 小さく左右に口を伸ばしてこれでもかと自慢げに胸を張った。

 母さんに比べてスレンダーだけど、それでも着ているワンピースもあってか体のラインが分かってサッと目を逸らす。


「さ、さっきの“魔術”……ファイア・アローだっけか? それってこうして教えてくれたってことは初歩中の初歩なのか?」

「うん。さっきも言ったけどこれでも短いの」

「あぁ、言ってたな」


 こっちに顔を向けて説明してくれた。

 詠唱には小節があり、それで威力や段階が変わるらしい。


「さっきのだと、「火」、「矢」、「穿て」の3つの言葉を繋いだの」

「あぁ。なんとなくニアが言いたいこと分かったよ。1節目は多分属性だな? で、2節目に目的のことがあって3節目に指示? があるんだよな」

「ん! えらい!」


 目を輝かせて背伸びして頭を撫でてくる。ニアに撫でられるのは嫌じゃないけど気恥ずかしい。

 咳払いをしてから続けて聞いてみる。


「じゃ、じゃあ最後のフォイアってのはなんなんだ?」

「合図みたいな感じ」

「なるほどな。なぁ、もう一度詠唱を教えてくれるか?」


 ニアから詠唱を教えてもらったあと何回か口に出して練習する。


「3つしか唱えないから簡単だと思う」

「どうだろうなぁ……やってみないことには分からないな」


 ニアがやったみたいに右手を前に出す。やっていた手つきは……人差し指だけを向けていた。

 構えはこれで良い。ふぅーと息を吐いてから詠唱をしてみる。


「【火よ──】」


 唱えた瞬間、体がぽぅっと温かくなった。その熱がヘソの下から全身を一度巡ったあと、段々と右手へと集まっていく。


 その感覚がわかると目を見開いて驚く。俺の表情を察したのか、ニアは背中に手を当ててきた。目を向ければ、なんてことない無表情に近い顔だった。


 それでもその目は落ち着いてと言っているように見えて、頷いた俺は目線を戻して詠唱を続ける。


「【──矢となり、敵を穿て】──〈ファイア・アロー〉」


 人差し指の先に陣が浮かび、矢の形状になった火が出てくる。

 これが……“魔術”。発動できたことが嬉しいと感じた瞬間に倦怠感が押し寄せてきた。けれど今は我慢して、もう1節唱える。


「【撃て】!」


 射出される火矢。ニアのときは真っ直ぐ飛んでいたのが、俺の場合は何故か緩やかに回転しながら氷柱に向けて飛んでいった。


「おお〜」


 パチパチと両手を鳴らしながらニアはすごいと言ってくれた。


「けどニアのファイア・アローとは違うよ、うな……」


 顔を向けた時、視界がチラついて体がぐらつきニアに寄りかかる。


「大丈夫、オーロン?」


 ニアの言葉に返事する余裕もなく、とくんとくんという落ち着いた心臓の音を耳にしながら、意識が暗転した。


──────

────

──


 オーロンの成長速度は著しく速い。

 私がふわふわした説明でもちゃんと噛み砕いて理解していって、まさか一回で発動してくれるなんて思ってなかった。


「…………」


 そんなオーロンは今、原っぱで寝転がった私の腕の中。初めて“魔術”を使った反動なんだろう。私もやったことがある。


 こうして眠っちゃうのは魔力欠乏症の初期症状。

 元々、魔力量そこまで多くはなかったんだと思う。


 多分起きたら魔力量は今より増えてると思う。私がそうだったし。


 魔力量を増やす術はこうやって全部出し切って気絶を繰り返したら増える。オーロンも順調に私と同じ道を歩んでくれてるの嬉しい。


「……ふふっ」


 きっとオーロンが大人になったらとってもつよつよな魔術師……剣士……魔術剣士? うーん、しっくりこない。


 でも私と一緒になっていっぱい活躍するんだろうなぁ。


「──将来が楽しみだね。オーロン」

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