心を動かすものに出会った時は…行動あるのみだ
プレは盛況の裡に終わり、興奮が冷めやらぬまま、会場は華やかなアフターパーティーへと移っていた。
シャンパンの泡が弾ける音、軽快な音楽、そして人々が談笑する声が、会場を満たしている。
亜里沙は、喧騒を避けるようにバルコニーに出て、夜風に吹かれ、都会の夜景をぼんやりと見つめながら、高揚感に満たされていた。
自分の推し石が、華々しい門出とともに、素晴らしい人の元へ旅立っていく。
そのことが、なぜか自分のことのように嬉しく、そして、その石がこれから紡ぐ物語に思いを馳せる。
理由はわからない。ただ、心が軽く、未来への期待のようなものが、胸の奥で小さく灯っているのを感じていた。
一方、誠太郎は、アズライトを最高額で競り落とした老紳士の元へ感謝の挨拶をしていた。
「ターナーさん。本日は、誠にありがとうございました。僕が採掘したアズライトが、このような素晴らしい方のもとへ渡ることとなり、本当に嬉しく思っております。」
老紳士は、満足げに微笑み、誠太郎の肩を軽く叩いた。
「君の熱意、そしてその石を見る眼差し…実に印象的だった。あれほど愛情を込めて語る君を見て、私も心を動かされたのだ。良いものを見せてもらった。こちらこそ、ありがとう」
「まさか、最高額で落札していただくなんて、本当にありがとうございます。今回頂いた費用はチャリティと、僕の今後の活動資金にさせていただきます。」
「私は投資家だからね。素晴らしい未来を想起させるものにはしっかりと投資をさせてもらうよ。」
老紳士は、目を輝かせながら続けた。
「何より、美しいものは、人の心を動かす。そして、心を動かすものに出会った時は…行動あるのみだ。君もそうだろ?」老紳士がウィンクしながら話す。
その時、周囲にいた人々が、アズライトを落札した老紳士と、その石について熱く語っていた誠太郎に興味を持ち、集まってきた。
「素晴らしい石ですね!」「アンデスでの話、もっと聞かせてください!」「他にはどんな鉱石をお持ちなのですか?」
様々な声が飛び交い、誠太郎は瞬く間に人だかりの中心になってしまった。
誠太郎は、集まった人々に対応しながらも、時間を確認しながら会場を見回し、何かを探している様子だ。
老紳士は、そんな誠太郎の様子を微笑ましく見つめ、周りにも聞こえるように、少し大きな声で言った。「おや、日比谷さん、君は飲み物を持っていないじゃないか。喉も渇いているだろう。バーカウンターで、冷たい飲み物でも取ってくると良い。」
そして、誠太郎にだけ聞こえるように、小声で囁いた。
「できれば、彼女の分も一緒にね。」
老紳士の視線は、バルコニーの方へ向かい、そこには女性の後ろ姿があった。それは、誠太郎に「好機を逃すな」と告げているようだった。
誠太郎は、老紳士の言葉の意味を瞬時に理解した。
集まった人々は、老紳士に促されるように、誠太郎を解放した。 老紳士は、集まった人々に向き直り、落札したアズライトを披露しながら、穏やかに語り始めた。「この石の魅力は…」
誠太郎は、老紳士の粋な計らいに感謝しつつ、バーカウンターでシャンパングラスを2杯取り、バルコニーへと向かった。