姉登場
その日の夜、亜里沙は自室の広いベッドの中で、眠れぬ夜を過ごしていた。
目を閉じれば、誠太郎の優しい笑顔と、あの女性の冷ややかな眼差しが、交互に浮かんできて、亜里沙の心を乱す。
(…あの女の人は、誰なの…?)
誠太郎の部屋から出てきた、あの女性。
亜里沙に敵意を剥き出しにし、誠太郎に「構わないで」と言い放った、あの女性。
(…誠太郎さんの、何なの…?)
恋人…?なんで部屋の鍵を持っていたの…?
考えれば考えるほど、悪い想像ばかりが膨らんでいく。
(…私には、知る権利なんて、ないのに…)
誠太郎と亜里沙は、交際しているわけではない。
それどころか、亜里沙は、自分の本当の立場を、彼に隠している。
(…でも…)
それでも、あの女性の存在を、無視することはできなかった。
彼は私が皇女であることを知った時、きっと引いてしまう。私は彼にこれ以上近づくことはできない。
でも、彼女に誠太郎さんを取られるのは絶対嫌だ。
亜里沙はふと時計を見る。時刻は23時。
今はニューヨークは、午前10時。今ならお姉ちゃんと電話が繋がるかもしれない。
思い立った亜里沙は姉の桜子に電話をかける。
姉は現在結婚していて、結婚相手の勤務先があるニューヨークで暮らしている。
数回のコール音の後、懐かしい姉の声が、耳に届いた。
「もしもし、亜里沙?久しぶりね、どうしたの?こんな時間に」
数回のコール音の後、懐かしい姉の声が、耳に届いた。
「もしもし、亜里沙?久しぶりね、どうしたの?こんな時間に」
「お姉ちゃん…久しぶり…今、時間、大丈夫?」
亜里沙は、姉の声を聞いた瞬間、張り詰めていたものが、ふっと緩むのを感じた。
「ええ、大丈夫よ。それより、何かあったの?元気がないみたいだけど…」
「…実は…」
亜里沙は、誠太郎との出会いから、これまでの出来事を、一つ一つ、丁寧に話した。
「…それでね、この前、彼の滞在しているホテルに行ったの。そうしたら…彼の部屋から、女の人が出てきて…私、その人に、もう彼に構わないでって言われてしまって…」
「…そうだったの…」
桜子は、黙って亜里沙の話を聞く。
「それでね、その人が誰なのかすっごく気になるんだけど、私、彼に問いただす権利もないし、何なら本当の私のこと、まだ言ってないし。でもすっごくもやもやするの」
「…亜里沙」
「…はい…」
「…あなたは、誠太郎さんのことが、好きなのね。」
「…!?…」
「…その女性のことが、そんなに気になるのは、あなたが、誠太郎さんを、大切に想っているからよ。」
「…でもね、亜里沙。他人をコントロールすることはできないわ。それは、誠太郎さんも、その女性も、同じこと。」
「…」
「…あなたが、今、できることは、自分の気持ちと向き合うこと。そして、誠太郎さんと、ちゃんと、向き合うことよ。」
「…向き合う…」
「…ええ。彼と、もう一度、ちゃんと話してみて。あなたの気持ちを、素直に伝えてみたら?亜里沙の話を聞く限り、彼はあなたのこと、きっと受け入れてくれるわよ。」
「…ありがとう…お姉ちゃん…。私、聞いてみるね。上手くできるかは分からないけど」
亜里沙は、電話を切った後も、しばらく、姉の言葉を反芻していた。
「…誠太郎さんに、連絡…してみようかな…」




