蟻天国にてファンタジー
原稿用紙に筆、一つの夢……。
寒い寒い外から、落ち着ける自宅に帰ってきた筆尾斗朗が先ずする事は、念入りなうがい、手洗いだ。
冬のウイルスをしっかり除外して、こたつがあるリビングへと足を急がせる。
斗朗の手には買い物袋が下げられていて、中には冬に欠かせない肉マン、蜜柑、ペットボトルの温かいほうじ茶、そして彼が最高に楽しみにしているファンタジーな文庫本が入っている。
こたつには姉がくつろいでいて、眠たげな表情を斗朗に向ける。
「姉ちゃん、ただいま。
肉マン買ってきたよ」
「お帰り……寒い中、ありがとね。
テーブルに焼き芋あるから食べてね」
こたつのテーブルの角に姉が先程買って来たであろう焼き芋が、ホクホクした湯気をたたせて食欲を誘っている。
「あんがと……良い石加減だったみたいだな、焼き芋くんたち」
焼き芋からたつ湯気を目にした斗朗に、『石加減』というワードが思い浮かんだ。
姉は斗朗の閃きに敏感な反応を示した。
眠たげな表情から、はっきりした表情へと変わりつつ。
「『石加減』だなんて、よく思い付くわね。
斗朗って、やっぱ天……」
姉の言葉の続きを待たず、斗朗の手は抱えている焼き芋を彼女のほっぺに軽く当てる。
ポカポカの熱が姉の肌をユルユルにしてくれた。
「ほぁわあああ……♪」
「まだ、殆ど出来立てホヤホヤだな。
はい、半分!」
「やるな、我が弟……ジゴロめが……」
焼き芋を半分に分け、袋から出した肉マンも姉の手前に置き、斗朗はいそいそとファンタジー文庫本をテーブルに開いた。
この動きを二秒で済ませた。
「肉マンもどうぞな。
外、スッゲ寒い寒い」
「お疲れ、お……それって、あのSF短編集?
遅山書店さんの?
ページ数が五百枚は在るであろう短編集を目にした姉は、斗朗が放つ『気』から何かを感じ取った。
「そ、二年前のリベンジ!
今回こそ、ちゃんとSF学んで応募する」
「……電子音、聞こえる」
「ん?
何かのアラーム?」
「斗朗から、『銀河電子音』……二年前の時よりかは強めの。
つまりは、本気の電子音」
姉が云いたい事は、なんとなく斗朗に伝わっている。
心地よい沈黙の空間、未来の作家を目指す少年の真ん中から伝わる電子音を、こたつの中で姉は感じて昔の夢を見ていた。
〈ボクね、いつか本を書く人になるんだ!〉
こたつは優しい蟻天国……蟻天国は二人を夢気分にしてくれる。
宜しければ、酷評をお願い致します。