僕の勝率は25%だ
「漫画、アニメでさ、データキャラとか、結果予測するコンピュータとか出てくるだろ」
ヒガシが麻雀牌を切りながら言った。
ヒガシ、ミナミ、ニシ、キタの男子学生四人は、ほぼ毎週末ヒガシのアパートに集まり、酒などを飲みつつ雀卓を囲む。この日も既に半荘を幾つか終えており、日付もとうに変わっている。
「『僕の勝率は90%だ』とか『作戦成功率は1%です』とかって言う?」
四人の内で最も多弁なミナミの言葉にヒガシが「そうそう」と頷くと、ミナミは質問を重ねる。
「出てくるね。それが?」
「いや、あれってどういうことなのかなって」
「どういうこととは、なんだ」
要領を得ないヒガシの言葉に、ニシが言う。彼を知らない者からは、彼の言葉は苛立っているように聞こえることが多い。実際には全く苛立ってはいないのだが。
ヒガシは軽く頭を下げたが、謝礼なのか、単なる頷きなのかは分からない。彼はしばらく考えてから口を開いた。
「どうやって計算してるのかなってこと」
キタが「ペ・ヨンジュン」と呟きながら『北』を切った。四巡目である。寡黙な男であるが、何故かこの言葉は確実に呟く。三人はこの儀式めいた呟きに、寧ろ厳かなものを覚える。
「データキャラの場合は過去の対戦成績から言ってるんじゃない?」
「天気予報みたいなものか? 面白みに欠けるな」
ミナミの言葉にニシが答えつつ、「あぁ、データキャラとしては正しいのか」と一人で納得している。ヒガシは軽く首を振った。
「いや、初対戦でも普通に言っているイメージがある」
「まあ、そうだね」
「陸上のような競技なら何とかなりそうだがな。それぞれの記録を比較すればよいだろう」
「でも、対戦する競技のイメージの方が強いよね」
ミナミの言葉に皆が同意した。ミナミが続ける。
「開始から終了まで、全部予測してるんじゃない?」
「ならば常に100%にならなければおかしいだろう」
「いや、そこはほら。こういう行動されたらどうにもならないなあ、とかがあるんだよ」
「対策しろよ」
キタの呟きに一同が笑った。
「そういうのって大抵、主人公側が試合中に成長したとかでデータキャラが負けるよね」
「『僕のデータにない!?』とか言ってな」
ヒガシの妙に堂に入った演技に笑いが起こった。
「主人公側に負けるまでデータに裏切られなかったということは、無敗ということになりそうだが、そこまで格のあるキャラであるイメージもないな」
「トップクラスには地力の差で、こういう行動されたらどうにもならないなあ、が多すぎてデータ通りに負けるんだろうね」
「対策しろよ」
ヒガシが見事なキタの模倣を披露した。
ひとしきり笑ったミナミが話を続ける。
「じゃあコンピュータの場合はどうなんだろう」
「前代未聞の作戦だろうから、条件を変えてシミュレーションしているのだろう」
「100通りの内、1つだけ成功したから1%ってことか」
ニシの言葉に納得したらしいヒガシに、ニシが頷きを返した。
「それなら、成功率を教えるんじゃなくて、これこれこういう条件だったら成功しますよ、っていう方を教えてほしいよね」
「口頭で説明するのは概略だけなのだろう」
「詳細はちゃんと確認しないといけないんだ?」
ニシは頷いた。ミナミが続ける。
「大抵、成功率に絶望しながらも作戦実行して、成功するよね」
「条件を守ったのだろう。わざわざ絶望する理由は知らぬが」
「絶望的に難しい条件だったんじゃない?」
「予測結果も、信用されているのかされていないのかがよく分からないよな」
「そうだね。絶望するくらいなら無理に実行するより、別の作戦を考えるなり、条件に問題ないか確認するなりした方が良いだろうし。しかも、その話の後は二度と成功率に言及しなくなるよね」
「自信を失うんだろう」
キタの呟きに「コンピュータが?」と、またも皆で笑った。
「データキャラはともかく、鑑賞する側としては、コンピュータはあんまり意味がないよね。失敗したら終わり、みたいな状況で出てくるけど、予測通りだったら作品終了になっちゃうから、驚きがないよね。寧ろ成功フラグみたいな」
「作戦失敗する場合は、意表を突く展開にはなるかもな」
「バッドエンドか、打ち切り作品には使えるだろう」
ニシが言いながら切った牌を見たヒガシは、手牌を倒しつつ叫んだ。
「この局での俺の和了率は100%だ! 12000点!」