毒味役立つこの私
かずみさんは以前までケーキが好きでしたが、毎日甘い味を感じていたため世界一嫌いな物体に変化してしまいました
月曜日の朝から片手にスマホ、もう片手に求人広告を持ち彼女は新しい情報を待っていた。彼女、薄井かずみは昨日赴いた面接先である石鹸工場からの返事待ちと同時に別件の求人をも探していた。(変な体質のせいで、人生台無し!)少し前まで働いていた洋菓子店を退職し、今無職の真っ最中。「今度こそ、天職でありますように!」「折角綺麗に切った髪が台無しだわね。まあ、あたしらの家系での問題だから宿命だわ」姉のチカがかずみの向かいの席で、書き物をしながらやれやれという表情を見せる。かずみと違いチカの髪はやや長く二つに束ねている。「宿命……抜け出せない、生き地獄だ」「来世は多分、抜け出せる……かも。ところで返事待ちは何の会社?」「石鹸の検品作業。食べ物じゃなければセーフよね」「え?」チカがぴたりと停止し、筆も止まる。「いやいや……考えてもみて、食べ物じゃないにしろアータ、検品作業ってのは凝視するもんよ!」チカの言葉に、今度はかずみが停止した。「あ!」意味がわかると不味い話。「その顔、面接先に体質の事話したわね?」「前の店辞めた理由聞かれたから、話すしかないよ」「やってもうたわ」不穏な空気の中、スマホが鳴った。なんちゅうタイミングで鳴るんだ。「もしも……」『今回、採用は見送らせて頂きます』通話が切れた。早すぎ!「何よ……今の棒読みアンサー。AIかよ!」「まあ……無理もないわ。あたしらの家系は皆、そうだから」彼女達の体質というのは、物を数秒間眺めるとその味が舌に伝わるというもの。代々それが続きこの二人も同じ宿命を背負わされたのだ。偏食性質のかずみは職場を転々とし、作家として活動するチカのマンションに転がりこんだのだ。「前からスカウト来てるゲーム会社の若社長の毒味役、引き受ける?」「社長って……抵抗あるな」何度も面接で不採用になっている為、落とすという社長は敵でしかない。「でも、毒味役なんていい仕事……高収入で至れり尽くせりよ。それに、社長っていっても……」数時間後、チカに言われてしぶしぶ向かった先のゲーム会社にいきましたところ、なんとも愛らしい幼社長が現社長にあやされ社長室の豪華な椅子に鎮座していたのだ。(うおおお!)可愛い幼社長は今二歳。「貴女が薄井かずみさんですね。皆様方の体質を見込みまして、孫の毒味役をお願いします」「はい、勿論ですとも!」小さい子、好き!「これから宜しくお願いします!」天職に出会い、かずみは今度こそ役にたつと心に決めた。