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おさかな短編集

メロンパンの味

作者: おおらり

「ぼくが死んだら、メロンパンを棺に入れてくれ」

 友人が、ぼくにそう言い残して先日亡くなった。


 早朝、葬儀場近くのコンビニにメロンパンを買いに行き、棺に入れようとしたが、葬儀場のスタッフに「ビニール袋は外してください」と止められた。

 焦って袋を開けようとしたら、パン! と大きな音が立ち、さらに恥ずかしい思いをした。葬儀なのに笑い声がたつのは、あいつらしいけど。こんなことなら、良いパン屋で前日に買っておけばよかったのか? いや、あいつが好きだったのはあのコンビニのメロンパンだったのだから、仕方がない。


 死んだなんて本当に信じられない。燃えるのを見て、燃えたあとを見て、それでも信じられなかった。夢でも見ている気分で、ずっとふわふわしていた。病気になってからも会いに行くと、すごく元気そうだったのに。もう会えないのか。

 メロンパンは、あいつが病気になってからは食べられなかったが、好物だった。学生のころは、よく一緒に買い食いをしていた。


 果たして、死んでから食べることができるのか?

 一個のメロンパンが、死後の世界では、ポケットを叩くと増えるビスケットのように、たくさん増えてくれたらいいのにな。

 ぼくは、たくさんのメロンパンに埋もれたあいつを想像して、ふふ、と笑った。


 あいつの死について、一度も泣かなかったし泣けなかったけれど、ぼくはメロンパンを食べることができなくなってしまった。あいつが全部ひとりじめして、持って行ってしまったんだな、と思った。


 それから長く経ち、ぼくは結婚して、娘ができた。

 ある日、娘がコンビニで「食べたい」とぼくにメロンパンを差し出した。


(もう、いいか。もう、いいのか。

 ぼくにもくれるのか?)


 心の中で、語りかけると、

「いつもおまえも食べていただろう」

という声がした。


 駐車場にとめた車のなかで、娘と分け合いながらメロンパンを食べた。懐かしくて、美味しくて、甘い味がした。

 メロンパンを食べながら、ぼくが突然泣き出して、娘も驚いて泣いてしまった。ぼくは涙を拭いて、娘の背中をさする。


 取り戻した、取り戻せるんだ、とぼくは思った。

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