ティーチミン
ウィンドウ・ブル3
【ダンジョンアタック】南大陸
南大陸にも幾つかのダンジョンが、ある。
情報子濃度が不自然な地域があり、そこを調査していた部隊がダンジョンを発見した。
情報子には数十の種類が有り、その内の虚質量の小さな物をオリジナル軍では使っていた。その[小さな]情報子が極端に少ない地域の中心にダンジョンはあった。
近づくと奇妙な姿の生命体が襲って来た。中心部で蟹とも亀ともつかぬ物を倒すと、部隊員の一人がダンジョンマスターに設定された。
それで、そこが[ダンジョン]と言う物である事が知れた。
ダンジョンでは、周りから吸収した情報子を引き出す事が出来た。勿論それだけでは無いのだが、彼らが知ったのは、今の処それ位の物だ。
【吸収】三娘
「もしかしたらティーチミンって、ブル=虎治の猫だけじゃないのかな?一つ目の猫って特徴的なの他の虎治、何も言ってないし」A
「どうなんだろうね」B
大きめの客室を宛がわれた三娘は、取り敢えずお茶をしていた。
と、ノックがあった。
「キャシーですー、入って良いですかー」
「どうしたの?」B
「ここのウィンドウ=ブルは、樹母様方のとこのオリジナルのアルモニコスとは別口なので、それをお知らせしろと指示されたです」キャシー
「へっ?」AB
「詳しく」C
「各平行世界毎の同一存在は、魔力波動が微妙に違っているです」
「宝くじの組番みたいな感じ?」A
「です」キ
「なので、一旦戻って探し直しすることお薦めするです」キャシー
「なんで?ウチラ猫の事訊きに来ただけだし」B
「そうなんですか?てっきりオリジナルの吸収対策かと思ったです」
「???」ABC
【資格】アマーリ
出立の段となって、グル師への最後の挨拶に訪れたアマーリは大きな封筒を手渡された。
「おめでとう、教員会議で君に初級魔導士の資格が有ると、認められた」グル師
魔導師ではなく、魔導士なので正式な弟子を採る事は出来ないが、補助教員として教鞭を取る事は出来る。トムオスやカーシャに並んだ訳だ。
「有り難う御座います」アマーリ
【予兆】森のシャオ
唐突にJINが現れた。
三人娘が樹母様と成られてから、物事は大きく変わっている。
このJINもそうだ。神樹の託宣は、今まで訳の判らない夢の中の呟きの様なものだった。しかし、今では分身であるJINを顕現させ、より具体的に述べる。
シャオは頭を下げ訊く。
「シュヌメヌーヤシガ(何事でございましょう)」
「オリジナルがダンジョンを手に入れました。
我等はダンジョンの言葉を無下にする事は出来ません。
彼等は総ての知識を手に入れる事に為るでしょう。
備えなさい」
【時点】キャシーと三娘
暫くキャシーと禅問答を続けた三娘は、どうやらこのキャシーは、自分等より未來に当たる平行世界から来たらしいと、思い当たった。
「この仕事、五年目になるですー」キャシー
ウィンドウ=ブルだけではなく、他のアルモニコス達の許にも赴くのだが、このキャシーはブル専門であるらしい。
「ブル=虎治は120分の1のアルモニコスです、百二十人発生してるです」キャシー
「分節全部発生しちゃうんだ」A
「でも、全部がウィンドウ=ブルになる訳じゃないよね」B
「三人だけです、あ、うちのオリジナルの場合はです」キャシー
「他のはどうなったの?」C
「同位体のアルモニコスが、同じ時間軸に乗る事はないので全部違う平行世界に行くです、時代もばらばらですー」キャシー
「でも、そこに行けるのは、上手い具合に次元平面を捲れるとこだけなので十人くらいだけ確認出来たです」キャシー
「みんな死んでたです」キャシー
「え?出現した瞬間の時点捕まえれば、良いんじゃないの?もしかしてやり直し利かないとか?」A
「利かないです、アクセス出来る時点が決まってるです、何度やり直しても同じ瞬間にしか到達出来ないです」キャシー
「あ、でも、アタシラとキャシーと違う時点にランディングしたよね?」B
「出発した時間軸が違うので、そうなるです」キャシー
「方法が違ったからと言う可能性は?」C
「あれ?あれれ?」キャシー
キャシーが混乱してわたわたし始めたので、三娘は休憩を取る事にした。
【バイト】カーシャ
単位は十分過ぎる程足りていて、カーシャは屡々森でバイトをする様になった。グル師の内弟子なのだから、あまり誉められた事では無いのだが、当のグル師は快く送り出している。
「カーシャ君には、良い修行になるだろう。
レポートをきちんと書く事が肝要だね。
思考を整理する訓練になる」グル師
・・・
「簡単に言えば、質量X存在時間が、その[存在]の四次元質量に為るわけ」B
空間魔法には、避けては通れない面倒な概念が幾つかあって、メタ時間とメタ質量が代表的な物だろう。Bはそのメタ質量の基本的なレクチャーをカーシャにしている様だ。
死に戻りポイントは、それぞれの所属ダンジョンになる。
だが、同盟にはダンジョンを持つ勢力だけが、加入している訳ではない。
キーナン公国であれば、小さなダンジョンの籍を借りると言う手もあるが、南西諸島国も加わった。ウーシャラークも参加を打診して来ている。南方諸国が加入を申請して来るのは時間の問題だろう。
三娘が取り組んでいるのは、結接点リンカーとも言うべき物で、死に戻りポイントをダンジョン以外にも広げるのが目的だ。
その外装の精度を要求される部分に、カーシャの腕が必要と見込まれた。精緻な空間魔法も必要だ。それは三娘Bが受け持つとしても、カーシャにも十分な知識を持っていて貰いたい。
森のじさまの手が空きそうも無いからなのだが、この先も大学からバイト学生を雇う事に為るのかも知れない。じさまの手が空く事なんて無いだろう。
「うへー!なんか馬鹿でかく為らないかい?」カーシャ
「この分は、現実平面から見ると虚質量に為るんだけどね。
計算に入れとかないと、式が壊れる」B
「じゃ、此処んとこと此処んとこに補強が要る訳か」
「そそ、それと此処と此処もシェイプアップして、次元応力逃がす感じだねー」
「うわー、手間掛かるなー」
飲み込みの良い娘だ。ドワーフは皆そうなのかな?
手動計算器を叩きながら手伝いのキャシー達も使って図面の引き直しを始めたカーシャを、満足げにみたBは自分の受け持ち、Cの書いたスパゲティールーチンのバグ取りを再開した。
ちなみに、キャシー達の書いた分は動作試験迄終わっている。
Cの分と言えば、Cにしか書けない分で、Aですらスケルトンを編めなかった部分だ。
これは、もう、Bにしかバグ取りは出来ない。
「徹夜確定( ;∀;)」ぼやくB
AとCは優雅にお茶をしている。
【故郷】アマーリ
小型の飛空艦が、南西諸島の最大の島に降り立った。
アマーリの乗艦である。
事前に知らせがあったと見えて、島民が詰め掛けている。
アマーリは、これ程人が居るのかと内心驚いた。
「若!」正装の武人が駆け寄ってきた。
「いや、もう殿でしたな!」
留守居役のグーケン老である。オリジナル軍に早々と降伏し、民を守った。一部の若手から売国奴呼ばわりされた。しかし、その若手達にしろ為す術などなく、剣呑な気配を孕んだまま事態は鎮まった。
「爺が生きていたか、有難い、宜しく頼む」アマーリ
神樹の森同盟軍の軍機故、詳しくは知らされてはいないが、アマーリが敵本拠地突入作戦で、重要な働きをした事は公布されている。
「魔法での手柄に、ござりますか」爺
「ああ、大学で学んだ事が随分と役に立ったぞ」アマーリ
「では、出来るだけ学生を送る事にしますか?」爺
こう言う処だ、とアマーリは思う。この老人は、常に先へ先へと思考を進める。親父が凡庸な君主でもこの弱小国を維持して来られたのは、爺がいたからだろう。
「巧く段取りしてくれ、それと空軍を作るぞ」アマーリ
「金が有りませぬが」
「森からこの船を貰った。
後二隻空輸されてくる」
「なんと」
「それだけではないぞ、最新型の飛空艇・・・戦闘気球のことだな、も二十五機貰える事になっている」
「それだけのお働きを成されたのですな!
こうしては居られませぬ、
舵取りの若衆を選抜せねば。
では、失礼致します」
忙しない爺様だ。アマーリは笑いを噛み殺し群衆に手を振った。
鼓膜が潰れそうな歓声の中、年若い安司は馬車へ向かう。
急ぐ事は無い、手を振りながらゆっくりとゆっくりと向かう。
その後ろには、笹耳の三人のキャシー、森人風のゆったりとした神官服でしずしずと付き従う。
あ、一人転けた。裾長すぎ。
【神樹】木目三娘
三娘達の手法は、剥がれる瞬間の次元平面に裏側から検索枝を打ち込んで、その時間軸を次元接着で固定すると言う物だ。誤差が発生するから、繰り返しは、同一時点へのランディングの方が難しい筈だ。
デュプリの手法では、理解が困難ではあるが、同一時点にしか到達できないと言う。組み合わせる事は可能だろうか。
いや、それより、平行世界のキャシーを仲介にあちらの神樹とのリンクを繋いで固定するべきでは無いだろうか。
勿論、この世界に存在する筈の神樹とのリンクもである。
三つの世界の神樹が、情報を共有するだけでも大きなブレイクスルーの可能性が発現するだろう。
「てかさ、元々根っ子は繋がってるんでない?」B
「そう思うんだけどねー、情報の共有に制限があるのかな?」A
「リンク繋げば、解る」C
【初動】南大陸
三百年程前の時点に経路を通す事に成功した[南の]JINは部隊の編成を始めた。経路が破断する事が無ければ王に直接出向いて貰う事も可能ではあるだろう。
王は一人で一軍を撃ち破る事すら出来る。
ただ御母様方の存在が気掛かりだ。いつ、この世界線に降臨されたのだろう。もし、[あちら]にも御母様方が居られるのであれば、王の御出馬は避け無ければ為らない。
そして、その場合最悪[御降臨]前の時点を探る事が必要になるだろう。この時代の様に、王の反射を撃ち破る程の力をいつ手に入れられたのか、不明なのだ。
送り出された部隊は、小規模な物になった。任務は偵察が主で、可能なら劣化体の確保である。
「おや?一個小隊だけなのかい?」オリジナル
「情報が十分とは言えませんので、偵察小隊をまず派遣しました」
「ふむ、まあ、任せた」
去り掛けたオリジナルが振り返った。
「ダンジョンの探索は進んでいるかい?」
「複数の候補が見つかりましたので部隊を派遣しました」
「いいね、あ、それと名前変えるよ」
「王のお名前ですか?」
「うん、今日から邪虎王と名乗る。
ヤクトティーゲルさ、
格好いいだろ?」
「御随意に」
【ティーチミン神】ウィンドウ=ブル
ブル少年は、三娘に質問された事が切っ掛けで一つ目の猫と出会った時の事を、思い出していた。お願いをされていたのだった。
なぜ忘れてしまっていたのだろう。
「天空の螺釘を見つけてくれんかの」
猫はそう言った。
「宇宙を補修する時に、一本落としてしまっての、小さいから探すのが大変なのじゃ」猫
「僕に見付けられますかね」少年
「なに、小さいとは言っても、主よりは大分大きいから大丈夫じゃろ。手伝いに三人の女を付けてやろう」猫
そう言うと猫は立ち上がった。奇妙な肢体だった。
前脚は腕に変わっていた。これも一本しかなく、肩からではなく胸から生えていた。指も一本しかない。人差し指にも中指にも見える。
後脚は変わりなく獣の脚であったが、やはり一本だけ。左右何れでもなく、真ん中に着いている。
「まず、魔法を覚える事じゃ、魔物が湧いてくるでの」
むくむくと奇妙な姿の猫は膨れ上がり、稀薄になり、空中に溶けて消えた。
三人の女とは、あの三人のエルフの女性だろうか。
寝台の上で、ぼんやりと考えている内、意識は夢の中にいつしか紛れ込んでいた。