プロローグ
無限の虎治・序
ウインドウ・ブル1
【始めに】作者
読者の皆さんは、既にお気付きだと思いますが、この作品の大ネタは平行世界を使ったタイムトラベルです。
公国の歌姫では、後になるまで、主人公が誰だか良く判らない仕組みにしてありましたが、書いてみると意外とメンドクサイ。
なので宣言しておきます。一見主人公に見える三娘、或いは三娘の代理を務めるキャシー(番号不明)は、狂言回しです。
では誰か?それは私だ(大嘘)
【次元接着器その一】ウィンドウ・ブル
「てことは、改変時のエネルギーは殆ど無い?」A
「たぶん」B
マティから、ウィドウ・ブルがアルモニコスである可能性がある、と報告を受けた三娘は、事象が成立する次元モデルを検討していた。
三娘Bの提案したモデルは、改変を受けた時点が元の時空平面から剥がれを起こし、それが光の速度で伝播していくとする物だった。
そうやって、剥がれた時空平面は元の時空平面とは違う時間軸を持つ。詰まりアーカイブから剥がれていく事になる。
「それ、変」C
今、三娘が存在する時間軸上に、少なくともオリジナルを含め三人の虎治が出現している。多すぎないか?もし、ブルがアルモニコスなら、同一時間軸に四人出現した事になる。
出現が改変に当たるのなら、その度に剥がれが生じ、元の時間軸から外れていなければ為らない。外れた時間軸上に次の虎治が出現し、剥がれ、またその上に、と言った連鎖を説明する必要がある。
そして、連鎖の仕組みがあるのなら、今度は逆に少なすぎる事になる。
「剥がれ=時間じゃないのかな?」A
それも、妙だ。時空平面の分岐を説明出来ないし、逆に総てのアルモニコスが到達する事に為らないだろうか。パラドックスの説明も出来ないのは言わずもがなである。
「JINに訊いてみよう」B
「お呼びですか?」JIN
【効率】歪なダンジョン
「オリジナルは厄介なギフトを複数持っている事が確認されています」コア
「一つは九十九遣い、一つは超回復、一つは反射、条件が不明ですが吸収というのも有る様です」コア
虎治は黙って聴いている。
「九十九遣いは、敵意が十分であれば働く事はありません」
「超回復は、なんらかの魔法か魔道具で制限する事が可能かも知れません」
「反射は、魔法で無効化するか、反射フィールドを物理的に破壊する必要が有ります」
「吸収については、反射フィールドで弾く事が可能だと思われます」
「なので、1、[反射]をマスターするか、魔道具を手に入れる」
「2、鍛練を継続しつつ、慣性制御で打突の瞬間質量を増大させる方策を手に入れる」
「この二つが、マスターのすべき事ですね」以上総てコア
「魔法はどうやって覚えるの?」虎治
「慣性制御と反射は、樹母様にお願いして術式を教えて頂きましょう、超回復の制限と反射の無効化はこれから開発ですので後になります」コア
「わかった」虎治
【次元接着器その二】神樹のJIN
「過去に向かって検索枝を延ばす事は、極普通にされておりますが、何らかの情報を取得した時点で剥がれが発生します」JIN
「難度、高くなってない?」A
「てか、剥がれた方の世界平面確保出来無いかな?」B
「出来る!」C
「・・・」JIN
「なんで無言?」AB
「あまりにも、あれなので・・・まあ、C御母様のお書きに成っている式を見て戴ければ・・・」JIN
CのコードはA4の紙三枚目に入っていた。最初の紙から覗き込むAB。
「キャシー!こっちに三人来て!」A
「こっちには五人!」B
書かれていたのは、次元平面向けに変形された超分子振動接着器の術式だった。
【係争】南大陸
「北大陸の南方諸島からの撤収を要求されています」JIN
「あそこは大陸じゃないから、撤収の必要はないよ」オリジナル
「全面戦争になると、危険です」
「危なくなれば逃げるさ」
敵兵器の驚異的なステルス技術は、三人娘が係わっている勢力だけだと、判明していた。その勢力がどう動くのか、見てみようとの腹積りだ。
「それより、光の竜の正体は解ったかい?」オリジナル
「極めて複雑な情報子制御での構築物である事は判りますが、我々の使う情報子の種類とは違う物が多く使われていて解析は困難です」JIN
「へー、例の召喚コードと同じ感じか」
「はい」
オリジナルとJIN(方舟)は、三人娘が繰り出した光の竜と、竜が暴走した後の(熱核兵器)が最大の脅威と考えていた。
そして、いつの間にか現れた人型の[方舟]JINと面影の似たメイド服姿の女性・・・。
「私が異空間に待避するのと、入れ違いに出現したと思われますので認識出来ませんでしたが、恐らくお母様方が作られた私の姉妹であると思われます」JIN
「妙だな、九十九遣いが発動する気配も無かったんだけど・・・」
JINと同じ情報子コンピュータなら、視認した時点で支配出来る筈だ。
「御母様方が、かなりの過去の時空点に転移されたのだとすると、より強靭な自我構造を持つ情報子制御コンピュータを、開発出来る時間があった、とも考えられます」
「面倒な話しだね、北大陸だけが突出して科学技術が発展してるのも、あの三人の所以か。二十歳そこそこに見えたのだけれど百歳越えているのかな?」
「不明ですが、有り得ます・・・」
「やはり、あの島々は押さえといた方が良いね、小競り合い重ねないと、本命の戦力解らないからね」嗤うオリジナル虎治
本命の戦力とは三人娘が関与していると考えられる勢力の戦力である。
【魔法教師キャシー】キャシー
「あのあの、歪のコア様から要請です」キャシーの誰か
「なに?」A
「虎治様に慣性制御付与と反射の自己付与を教えて欲しいと」キャシー
「んじゃ、あんた行って教えて来なさい」A
「え?でもでも」キャシー
「つべこべ言わず、とっとと行く!」A
「はいーーー」キャシー
【異世界】オリジナル
「劣化体は見つかりそうかい?」オリジナル
「この世界では難しいかもしれません」南のJIN
「へー、そう言う言い方するって事は、別の世界を探索する方法があるって事かな?」
「ここに到達する経路を逆に辿って検討した結果、異世界に到達し得る幾つかのルートが判明しました」
「はははっ、詳しい事は訊かないよ、訊いても分からないだろうからね、精鋭一個中隊派遣する段取りが付いたら教えて」
「機甲車両と航空兵力も必要かと思われます」
「その辺も任せる」
【監視軍】サルー
サルーの艦隊は大陸の南端に展開していた。
「本気で居座る積もりじゃないとは、思うんだけどねー」サルー
最近神樹の森の実権を握ったらしい、三樹母が、敵の母艦を急襲して勝利を納めた。総ての大陸から撤収する事を条件に降伏を認めた。そして、オリジナル軍は南西諸島に居座っている。
ここは、大陸じゃない、等と言う詭弁はサルーは認めない。シャオも認めないだろう。だが、同盟軍なのだ。各勢力と意見を調整する必要がある。数日待てと指示があった。
「今なら、勝てるんだけどなー」
時間が立てば、隠蔽は次第に見破られる様になるだろう。待たざるを得ない数日が致命的な物にならないか。サルーは自分が背中に汗をかいているのに気付いた。
【要請】アマーリ
一度、矛を納めた所以で同盟軍は動きが取れ無くなっていた。
南西諸島を支配していた[海賊国家]は、壊滅している。攻め込むための大義名分が無いのだ。
「貴君が、首長の息子と聞いた」
わざわざ大学まで出向き、木目は、アマーリとの面会を求めた。
「既に存在していない国ですがね」アマーリ
「奪還を求めるや否や」木目
「何故その様な事を?」アマーリ
「要請が無ければ、我々は動けないからだ」
「・・・」
アマーリは即答出来なかった。
【次元接着器その三】
次元接着器の術式はバグ取りの段階に入っていた。Aに付いていたキャシーの内の二人がBの応援に回り、残った一人は全体式の纏めを試みている。
AとCは、お茶だ。
「なんかさー、三日くらい掛かるかと思ったのに、半日掛かんないねー」A
「キャシーが無茶苦茶使える」C
「アタシラも腕上がってるぽいし」A
「接着器どこに使う?ウインドウ・ブルんとこ?」C
「マティが肖像画見付けた時点で良くないかな?」A
頷くC。
【海賊島】沿海諸国
南西諸島にオリジナル軍が居座っている事について、沿海諸国の衆議は一致していない。盛んに海賊討伐を標榜していた二三の国の中には諸島の占有権を主張する者もあった。
しかし、大勢としては、幾つかの海峡の自由航行権を認められるのであれば、諸島を誰が占有するのであっても構わない、と言う物に為りつつあった。
時間を置けば、南西諸島の占有はオリジナル軍の既得権と化し、北大陸は柔らかな下腹を獰猛な野獣の眼前に晒し続ける事になる。
「俺には、覚悟が出来ていないです」アマーリ
代表として奪還要請を出せば、即ち、島嶼をそっくり背負って立つ事になる。俺に出来るのか?
「神樹同盟に参加しなさい、そうすれば少なくとも軍事面ではフォロー出来る。そして、今動かなければ永久に故郷は喪われる」木目
「・・・判りました。奪還を要請します」アマーリ
【電撃戦】サルー
「ちまちま遣ってると、こっちの手を覚えられちゃうからね、一気に行くよー」
古株の中には、というか、古参の殆どがサルーの戦い方を知っている。戦う時は出し惜しみせず一息に行く。勝てそうに無ければ、とっとと逃げる。
森空軍とサスケラの騎士団母艦も急行中だ。サルーが息切れした頃に、二の矢、三の矢となるだろう。
本島に設置されていた総てのレーダーがホワイトアウトした。
じさまの新兵器だ。
ついで上空が靄に包まれ、オリジナル軍の施設、港湾の艦船は
激しい空爆に曝された。
空挺隊の四角い降下布が鷲型の援護の本、舞い、
程無く本島は陥落ちた。
「え?もう、終わっちゃった?」鷲型に乗り込んだ処でサルー
【講和】
「呆れたね、米軍並みの戦闘力じゃないか」オリジナル
小競り合いを難度か重ねる目論見がいきなり破綻してしまった。
「機動力は、寧ろ優れているかも知れませんね」南のJIN
「レーダーを無力化出来るとは、恐れ入ったね、敵の光学ステルス破りの目処は立ったかい?」
「画像処理でヘッドアップディスプレイ上に、ポリゴン表示する事には成功しています。が、今回の様に高密度で現れた場合は難しいでしょう」
オリジナル達は撮影されたVTRを観ている。
「この靄全体にゴールキーパーを撃ち込める様に出来る?」
「可能です」
講和会議は、諸島の南端の大きめの島で行われた。
オリジナル軍は島嶼部を含めた、南以外の総ての大陸から完全に撤退し、相互不可侵条約が結ばれた。