彼女のやりかた
「それより、昨日のことからだ」
ため息をこぼした弁護士が手帳をとりだして正確な時刻と詳細をよみあげる。
「 昨日、午後十四時にイーストパークでジェニファーと待ち合わせ。いつも『面会』は彼女の学校帰り同じ時間にそこで会う予定になっている。 ―― ところが、彼女がそこで弁護士に会うことはない。いままで一度も。 昨日も来ないのを確認して、十四時十分に彼女の携帯電話にかけ、留守電にメッセージをいれて十四時十三分わたしは次の仕事にむかった。―― ふだんの彼女の『やりかた』はこうだ。十四時の電話にはでない。そしてこちらが別の仕事にむかいそれがあがりになるだろう時間をみはからって折り返しの電話をかけてきて、自分の家に呼びつける。《夕食をいっしょに》どうかという誘いだ。 この『誘い』は、断ると彼女の機嫌をひどくそこねて家の中であばれるというので、なるべく受けるように上司から指示が出てる。 ・・・これのせいで前任者が倒れたといってもいいだろう。 いいか?ハワード家の『夕食』であるコース料理のはじめから終わりまでずっと、彼女には話してもいないこちらの家族内のできごとを、まるでその場で見聞きしていたかのように《事細かく質問されつづける苦行の晩さん》だ。・・・自宅に盗聴器が仕掛けられていないことを確認した前任者は、ノイローゼになって倒れた」
ジャスティンの腕に寒気がはしる。
「 昨日の十八時に仕事がひと段落したので、彼女に四度目の電話をした。わたしは前任のように夕食に招かれるのはごめんなので、彼女が出るまでこちらから何度でも電話をかけることにしている。 ―― 初日と二日目までは成功してレストランで面会をしていたんだが、きのう三日目にして彼女はわたしからの電話をとらなくなった。 二十時十分に六回目の電話をかけてメッセージをいれずに切って、家のほうに電話をした。 これから心当たりに片端から電話をかけてみるというわたしの意見にご両親は賛成し、見つからなくともとりあえず今日の朝まで待つことにした。今日は精神科医に会う曜日だから、彼女は帰って来るだろうとわたしは思った。なぜなら ―― 彼女は賢いからだ」