ジェニファーのナイフ
『すぐに迎えにいくから出られるようにしておけ』
「おはようの挨拶もなしで?」
『ジェニファーが行方不明だ』
「なんだって!?いつ?」
『くわしくはついてから話す』
通信はきられ、ジャスティンは道端でおあずけをくった不出来な犬のように、うろうろとマイクを待った。
数分後にすごいブレーキ音とともに角から現れた車に飛び乗る。
「 今日のおれたちとの面会に立会いをする彼女の弁護士が、昨日の定期面会に彼女が来なかったにもかかわらず、おれたちに連絡をしなかった。―― 彼女の両親の希望を優先したわけだ」
「えっと、週に四日以上精神科医と弁護士に会わなきゃ保護観察って取り消しになるんだっけ?」
当然だとうなずくマイクは自家用車のステアリングを叩いた。
「彼女の身を案じるなら、もっと早くに連絡をよこせってんだ! 弁護士と両親でこそこそ相談して夜中をすぎても見つからないし帰ってこないってんで、ようやく連絡してきたんだろ」
ひどい運転で信号をいくつかとばして静まり返った高級住宅区域にのりこむ。門の前には数台の警察車両がとめられ、救急車がとまっていた。
「なんだ?誰か倒れたのか?」
マイクも知らないらしく、自分の車をとめ、近くにいた警察官に聞く。
「遺体がみつかりました」
「そんな!」
「間に合わなかったか・・・。どこで?」
額を片手でおさえたマイクに、メイドの女ですよとこたえが返る。
「娘の部屋の黒い布の間です。胸にナイフが刺さってました」
マイクと同じ殺人捜査課の警察官から状況をききながら、ばかでかい家を目指す。
「ジェニファーの部屋でメイドが? じゃあ、そこに押し入った人間に連れ去られた可能性が・・・・え? ナイフだって?」
いっしょに歩き出していたジャスティンの口からおもわず裏返った声がもれる。
「 ―― どうした? まさか、ジェニファーが持ってたとか言うなよ」
となりのマイクが低く言うのに、持ってたよ、と情けない声をだす。
「 ―― 彼女、スカートの中に隠し持ってるんだ・・・」
すれ違った科学捜査班に挨拶して、運ばれる遺体の胸に刺さっていた刃物の柄をのぞく。
うなずいたジャスティンにマイクは嫌そうな顔をした。