たばこ
胸苦しさにつかんだTシャツはじっとりと湿っている。
この季節にこんな汗をかいて起きたのははじめてだ。
起き上がって洗面所に顔を洗いにゆく。見慣れた自分の家がこんなにも安心できる場所とは思いもしなかった。
鏡の中の顔をにらみ、開け放した水に頭からつっこむ。
サイドスタンドをつけたベッドに腰をおろすが、横になる気はなかった。ここ数年でやめられた煙草がほしくなる。
「っくしょお・・・」
窓の外はほんの少しだけ夜とは違う色になっている。枕もとの携帯電話で時間をみる。
朝といえば、朝だろう。
昨日、ローランドの遺体を確認し、そのあと寄ったカフェで、魔女みたいな女にまた会ったのがいけなかったのだ。
入っていないのはわかっても、いつも煙草をいれていたサイドテーブルの引き出しをあける。
「っうそ!?」
そこには見慣れない煙草が入っていた。
―― あの魔女の煙草・・・
差し出されたそれをマイクが握り潰して足音も荒く店を出てしまい、残ったジャスティンが謝ると、女はまた新しい箱を差し出したのだ。
災い除けをしたいときに吸いなさい
女のゆったりと言い聞かす声がよみがえり、手荒く引き出しを閉めて立ち上がった。
今日はようやくジェニファーに会えるのだ。
―― 『ようやく』って・・おれ・・・そんな待ってたっけ?
自問しながら台所へ。