話しかけるな
「 『これ』がカンドーラにケイトのことを教えた《手紙》だ。 一枚目はこの文だけで、二枚目に『マデリンの娘ケイト』とあって、在籍していた専門学校の連絡先がある。彼女をつかまえるならそこが一番いいっていうのを知ってた人間だろうな」
『代価』ってのはこの情報の報酬か?と警察官のひとりがきく。
ベインは困ったようにゆっくりと考えながら話した。
「それが・・・この手紙の送り主は、結局カンドーラに接触してこなかった。新手の脅迫かと思っていた彼も、あっけにとられたと言っていた。おれたちも、たどりつけずじまいだ。 だいたい、ケイトを産んだマデリンが父親のことは『忘れた』の一点張りなのに、そいつがどうやってケイトとカンドーラのつながりを知ったのかもわからないし、何がねらいで知らせたのかもわからない」
カンドーラにはたくさんの愛人がいるが、どこにも子どもはいない。正統派でないとはいえ《聖堂教》の聖父だと名乗っているかぎり、子どもがいるのはまずい。
そこに、いきなり実子が現れ、喜びもあったが、はじめは、 ―― 自分の存在を知ったケイトが遺産目当てに近づいたのかと疑った。
「 ―― だが、会ったとたんケイトはその相続権も放棄した。結果として彼の言う『親子の感動の対面』になるわけだが、はなしをきくと、ケイトの態度はひどくそっけなくて、会ってからも父親に何かを要求することもなかったし、最初に言われたのが、『わたしは信徒の一人にすぎないから、父親として接しないでほしい』ってひとことだ」
つまり話しかけるなって?と警察官のひとりが眉をよせる。
「ああ。だから、彼女とカンドーラの関係を知ってる人間は、信徒にも幹部にもだれもいなかったんだ。 ―― カンドーラにいわせれば、自分が払った『代価』は彼女との『親子の絆』で、それは知らない間に持って行かれたってことだ」
警察官のひとりが、じゃあ彼女が入信した理由はなんだ?と、もっともなことを聞く。