善意という名の悪意
「ってことは、つまり、ノース卿とも趣味が合ったってことだ」
本物のゴードンとノース卿が語り合うのをみていた父親の言葉を思いだし、ウィルが前髪をはらった。
ジャンが困ったように首をふる。
「まあ、あの教会に集まった人間は、みんな、ノース卿の『趣味』に興味をもったか、共感したか、だ。教会横に建てた小さな家に住んでるんじゃなく、ボランティアとして交代で出入りしているらしい。そんで、教会の掃除から畑の管理までをして、《ノース卿の役にたつように》過ごす。つまり、彼らは城の使用人もかねてるが、これは、教会の活動とはまったく関係ないから自分たちは教会の信徒の名簿にのっていないって、みんなが口をそろえてる」
「そのボランティアで、『呪い』の運営ってこと?」
ザックの言葉に二コルのため息が重なった。
「うそだろ・・・。だっておまえたちがレオンと足止めした中には、『マーク』に棚をプレゼントした人たちはいなかったんだろ?」
ザックとウィルがそろって肩をすくめ、ジャンもこめかみをこすった。
「この教会に『ボランティア』はたくさんいて、登録するでもないし、身分を書かされるわけでもないんだ。 ―― せっかくエミリーに芝居の券を贈った人物の正体がわかったっていうのに、行き詰まったな・・・。彼らは彼女に芝居の券を贈ったが、恋人との《偶然の出会い》は劇場のハドソンが見てた。棚を倒した人物も、あの教会にいる彼らじゃないし、こりゃ、盗聴器を仕掛けただけってことになるな」
「そんな!だって盗聴してたから、あの日、保安官たちを足止めしたんだろ?」
妨害だよというザックに、ルイが首をふった。
「だからさ、彼らはそれを、あくまで善意だと主張してるってわけさ。シェパードがすすめてくれた『盗聴』で、彼らは『役に立つことをしよう』って考えて、保安官たちが《忙しくて大変そうなとき》に夜食を差し入れたりした。まさしく、善意という名の足止めだけど、悪意だったとは証明できないだろう?」
ルイの困ったような笑顔にザックはくやしそうに口をとじる。