自分だけは本物
「―― もとをたどれば、四十年近く前の話しだ」
ケイト・モンデルの母親であるマデリンは、後に『星の恵み』の教祖となるフランク・カンドーラの恋人だった。
彼女とカンドーラをふくめた男女八人は、《自然の力と同化する》のを目的とした《精神解放》の同好会をたちあげた。
なんだそれ?とあがった声に、おれもよくわからん、とベインはこたえる。
「 わからんが・・・たぶん、そのころ流行った《超能力現象》にあこがれた若者たちがつくったサークルのひとつなんだろう」
それにノアが、おれたちの世代だなと周りの若い世代をみまわす。
「 ―― 地方新聞で『特別な能力』を持った子どもがいるって取り上げたら、自分もそうだって言いだす人間がどんどん出てきて、そういう能力を引き出そうっていう講演会があちこちで催されて、あのころ、どこも大盛況だった」
ノアの思い出話にベインが付け足す。
「大半がインチキだったのはいうまでもないだろうが、そういう中でも必ず、『自分だけは本物だ』っていうのが、どういうわけか残る。 ―― それがカンドーラの『星の恵み』だ」
自分の声と言葉には恵みの光の『力』がそなわっている
「 ―― 彼のもとに集まった人数が数百人にふくれあがり、『集団』は『団体』になった。 自然に、はじめからいたメンバーが、『星の恵み』の幹部になっている。ただし、 ―― マデリンをぬかして」
ウィルが身をのりだした。
「なんで、彼女だけ?」
資料には、三十五年前に正式に宗教団体として星の恵みが登録され、マデリンをぬかした当初のメンバーの名前が並んでいる。
ウィルにほほえんだベインが椅子に座りなおす。
「 ここからは『確認』がとれてないんで資料にはのせていないが、どうやら彼女は、妊娠していたようだ。彼女とカンドーらはいいカップルだったと昔の仲間が言ったよ。―― 彼が成功するまでは」
「成功したら仲がちぐはぐしだした?」
聞いたウィルをほめるようなうなずきかたをしてベインは続ける。
「・・・どうやら、《自然の力》を信仰して尊重していたのは、カンドーラではなくてマデリンの方みたいだ」
彼女が彼を導き、仲間は彼が募った。だが、そのうち彼が、自分は選ばれた人間で、自分の声と言葉には授かった『力』が宿っていてどんな病もなおすと口にする。