燃やされたノート
「なるほど。そりゃおれでも聞かないね」
「そうか、ノートはここで拾われたのか」
警察官が納得したように確認しあうのに、なぜか、男は笑い出した。
「 何言ってんだ?拾う?ないよ、ありえない!そんなことあるわけないだろ?―― だけど、あいつはわざわざおれに言ってきたんだ。あれってやっぱわざとかな。まあ、でもあれからこなくなったんだよなあ・・・。たしか・・・」
ジャスティンがマイクの顔をみながら手をあげる。
「 あのさ、『ありえない』ってどういう意味だ? あんたなにか知ってそうだな」
ここでマイクが警察官の身分証を相手にみせる。
男は逃げたいのに逃げられないという態度をみせてから、盆をわきにかかえた。
「だからさ・・・。えーっと・・これは、ずっと前のことで、もう、許されると思うんだけど・・・。やつのノートを、ここで盗んだ人間がいるんだ」
「盗んだ?」
それはひょっとしてノース卿か、と聞きそうになったジャスティンより早く、じつはイタズラだったんだ、と話しがはじまった。
「 ―― あの男がこの店で嫌われてたって言っただろ?で、その当時ここでウエイトレスをしていた女の子の一人が、やつのノートを一冊盗んで、隠したんだ。軽いイタズラで、みんなでノートを読んで笑ってから返すつもりだったんだ。そのときはさ。―― 思った通りやつは騒いだけど、おれたちは知らないふりを通した。で、そろそろ、その辺の道に落として返してやるかって言ってたんだけど、ノートを、・・・その女の子が燃やしちまった」
あれには自分も驚かされた、と警察官たちの顔を盗み見る。
ジャスティンが代表して感想を口にする。
「そりゃイタズラの域をこえてる。やりすぎだな。って、・・・じゃあ、なんだ?返さなかった?っていうか・・・ローランドのノートは、そこでなくなったってことか?」
「しかたないだろ?彼女、そうとうやつのことが嫌いだったみたいで、そろそろ返そうかって言ってたら、いきなり、店のガス台で火をつけて、ここで燃やしちまったんだ」
警察官の困惑に、店長は心配そうに声をひそめた。
「これって、おれたち、何か罪に問われるのかな?」
「おれは問いはしないけど、《よけいな話し》だったのは確かだよ」
ジャスティンの言葉にマイクがかぶせるように質問する。
「そのノートの件を知ってる人間の氏名と住所はわかるか?」
無理だよ十年も前だぜ、と今度こそ男は警察官から逃げるようにもどっていった。