写真をだして
「怒ってはいません。ただ、・・・まさか今日も占いで出たからここに来たとかいいませんよね」
一昨日と同じように不機嫌な声でマイクがきく。
そんな様子を気にせずに女はこちらに笑いかけた。
「でも、あなたたち、―― 何かゆきづまってらっしゃるでしょう?よろしければ、わたくしがなにかお手伝いできるかもしれませんわ」
断定され、何かを言い返さなくてはと思っている男たちよりもはやく、女は「その男の写真をだして」といきなり命令した。
「『おとこの写真』?って、・・もしかして、ローランドの?」
思わず口にしてしまったジャスティンを制するようにマイクが「知り合いですか?」とありえそうもないことを聞く。
答えない女は赤い口で笑った。
かさかさ、と。
舞ったのは、突然巻き起こった風にとばされた数枚の紙で、それはさきほど演劇学校からもらったローランドの資料だった。
テーブルの足元に落ちたそれを拾うためにあわてて椅子から身をのりだしたジャスティンは、先ほどその資料をつっこんだはずの紙入れが、しっかりと自分の尻の下にあるのを確認した。
―― なんで?
拾おうとのばした指先がふれた紙が、また強い風にふかれたかのように、むこうまで飛ばされる。
「お客さん、落し物ですよ」
ジャスティンたちが注文したコーヒーを運んできた体格のいい店員がかろやかにそれを拾いあげ、持ってくる。
銀盆にのったカップを置くより前に、拾った資料をテーブルに置き、その横にジャスティンが拾い上げた写真を見下ろし、つぶやいた。
「・・・この男・・、おれ知ってるな・・・」
写真から目を離さずに、器用にカップをテーブルに置く。
「ああ、わりと、有名人だからな」
ジャスティンは紙入れの中をみて首をかしげながら、拾った資料を乱暴につかみ入れる。
ちくしょう。 どうにも納得いかない。