№30 ― 二人のゴードン
№30
「これが、亡くなったゴードンの写真」
ウィルが父親から借りてきた写真をテーブルに出す。
会議室に集まったA班の面々は、その写真をかこむようにして集まった。
「で、こっちが、ノース卿の《教会》の、フィリップ・ゴードン」
ザックがその隣に別の写真をだす。
「別人だ」
わかりきっていることだが、ルイが口にした。
並んだ写真の人物は若者で、髪の色から目の色、顔立ちにいたるまで、どこにも似ているところがなかった。
「《教会》のゴードンはあの芝居のチケットを買ったことを素直に認めた」
ジャンがここまでにわかったことを説明しはじめる。
シェパードが副長官の椅子から降ろされるまでの間に、ギャラガーの指揮によって警察官におさえこまれていた教会の信徒は従順で、取り調べにも素直に応じ、エミリーの手に渡った芝居の券は、彼女の勤めてたいレストランに野菜を売りにゆく女が、彼女へと贈ることにしたもので、信徒の中の、ゴードンと同じ名に《改名》した男が、手配をしたというものだった。
「ほんとに?じゃあチケットはその信徒の、無償の好意ってこと?それにゴードンの指紋が残ってないっておかしいよ」
疑問と不満を代表して発したザックの声にかぶせるように、ルイが冷静な声で、なんで改名したんだ?ときくのにニコルがこたえた。
「裁判所に提出した書類によれば、生まれてすぐ家族を失い、ひどい施設をとびだして、名前を変えて人生をやりなおしたいってことだが、 ―― どうやら本当の理由は、フィリップ・ゴードンの著書をよみ、彼に憧れたからってとこだな」
改名の理由を聞きに行ったニコルは、熱心にゴードンの著書をこちらにすすめてくるザックと同じ歳ほどの男の様子を思いだし、眉をよせた。