ノートを拾った
薄暗く、それでいて暖かく落ち着いた昔ながらの雰囲気をもつ店の奥まった席につき、ローランドの資料が入った紙入れを投げだす。
ジャスティンは天井をあおいだ。
「・・・つまり、ずっと落ちこぼれのローランドがノース卿に拾われたことによって、劇作家になれて、周りの人間がむけてくる目が変わった。 なるほど。もう一度ノース卿と友達になりたかったのもわかる」
「やつは城の教会の人たちともうまくいってなかった。教会の人たちをひどく馬鹿にしていて、態度もひどかったらしい」
ジャスティンが、もしかしてコザックファミリーが一番の友達?と笑う。
「そうかもな。 きっと、最後まで『友達』とよべる仲間はいなかったんだろ。パーティーに来ていた人間たちは、やつを『司祭様』とかもちあげて集まってたから、気分的にはよかっただろうが、どこかからかわれてるような感じに気づいていたのかもな。それでやっぱり、―― ローランドが会いたかったのは、ノース卿だった」
「じゃあ、やっぱりノース卿が唯一の友達?いや、もしかして惚れてた?」
二人はしばらく顔をみあわせ、首を振って笑い合う。
ほんとうに、人とのつながりがない男だった。
故郷にいた頃も偉そうな態度の子どもだったようだが、父親が聖父だったこともあり、まわりはしかたないと受け入れていたらしい。
口はうまいが、嘘も多くつくローランドがそのせまい土地にいづらくなったころ、家の金を持って出て行ったのは、すぐにみんなの知るところになった。
以来、故郷の誰とも連絡をとっておらず、今は聖父をやめた父親は警察官の訪問に、『うちには息子などいない』と言い張ったという。
マイクもテーブルに肘をついてこめかみをたたく。
「もし、―― これはあくまで仮定だぞ?もし、ノース卿がバーノルドに関係しているとしたら、ローランドがノース卿に拾われたときにはすでに、はじめの事件は起きたあとだ。・・・あそこが本当に『何か』の現場だとしたら、そんなところにいきなり、そのへんで拾ったような人間を、おまえなら雇い入れるか?」
「絶対いれないね。どんなやつかもわからん・・・じゃあ、なんだ?ローランドとノース卿は面識があったって言いたいのか?」
「いや、面識というか・・・ノース卿は、やつがどこにも友達のいない孤独な人間だってことを、知っていたのかもしれない」
「でも、まてよ。たしか出会ったきっかけは、ノートを拾ったからなんだろ?」
紙入れの中からジャスティンはがさごそと資料を抜き出す。