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だれも覚えていない
しばらくして、あった、と指をとめた男がその紙を差し出した。
「 ほんとうに、この学校にいたのか。 十三年前入学っていえば、おれもいたけど、まったく記憶にないね」
当時の入学許可証と個人確認証の写しをのぞきこみ、事務の男は首をふり、すぐに笑った。
「ほらみてみろ。卒業できずに、辞めてるんだ。単位がもらえなかったんだろ。うちの学校は質が高いし、当然努力も求められるからな」
「当時のクラスメイトは?わかります?」
「わかるけど、賭けてもいい。ぜったいにやつを覚えてる人間なんていないよ」
断言に眉をあげた警察官に、だってそうだろ?と男はまた紙束の中身を探し始める。
「この十年で、うちの学校にやつのことを確認してきたのは、あんたたちが初めてなんだ。それに、あんなでっちあげな経歴をつくれたのは、ここに仲良しなクラスメイトがいなかったからだろ?」
まったくの無駄だろうけどね、と言ってローランドの名簿をコピーして渡してくれた男に、礼を言って学校を出た二人はすぐに車に戻りたくはなく、近くのカフェによることにした。