言葉がでない
漆喰の壁は白く平らで何もしかけられそうにもない。あるとすれば、祭壇のまわりか、床に限られるだろうと、身を縮めて調べてゆく。
祭壇前の、聖父が説教をするための説教台には、電灯のスイッチのほかには何もみあたらず、重い木材でできた説教台を動かすが、下にも何もみつからない。
先ほどレリーフの解説をした信心深い警察官が祈りの言葉をつぶやき、祭壇に足をかけてのぼるが、情けない声をあげた。
「やっぱ、だめだ。おれ、この彫像には触れないや」
「いいよ、この像の下の台をみてくれ。ザック、おまえが像を確認してくれ」
ルイの言葉に従いザックは『光の子』の像を触ってみる。
その顔が、最近友達になった人物とどこか似ていると思いながら、あごのほうをさわったとき、途端に、ごり、と音がして、がちゃん、と機械的な音がした。
「すごい。 ―― よく、顔が動くってわかったな」
ルイの驚いた顔に、ザックはごまかすようにうつむいた。
「みてみろ、細い扉があいた」
祭壇の奥にひらいた隙間をさすジャンが、念のため警察官に先陣をたのむ。
銃を構えた男が、壁の隙間に身をすべりこませ、細い闇へと消えてゆく。
すぐに、入って大丈夫だと合図が送られた。
ライトを手に入ったせまい空間には、また石の階段があり、警察官を先頭に一列で進む。
上から「扉だ」という声が聞こえた。
つづけて軋む音がきこえ、ドアをあけて入り込んだのがわかる。
警備官たちも続けば、小さな古いドアのむこうには、ライトをむけなくとも口を開けて上をみる警察官たちの姿が見えた。
「なんだこりゃ・・・きもちわる・・」
かすれた声を警察官がだす。
みあげたその空間の壁には、いくつかの古いランプといっしょに、はりつくようにして奇妙な品々が並べられていた。
ウィルといっしょにサウス卿の口から直にコレクションの話を聞いていたニコルでさえ、その予想を超えた気色悪さに、言葉がだせない。