すでに死んでいた
どうした?といぶかるマイクにジャスティンは説明する。
「いや、だからほら、ケンが棚につぶされた事件あっただろ?あれの仕掛けが、前日の0時ぐらいに停電があって、その間じゃないかって、警備官は考えてるんだ」
マイクが、停電の時間をギャラガーに聞く。
「ほんの一分か、二分だったらしい。しかも、留置所施設内だけなんだ。 このごろのローランドはひどい幻覚と幻聴におびえていたらしい。監視官に助けを求めるのは常時だし、奇声や泣き声も日に日にひどくなっていた。そして昨日の夜中も、いつものように騒ぎ続けた後に、静かになった。ここまではいつもの繰り返しだ。―― ところがきのうは、留置所の常備灯とカメラが真っ暗になる騒ぎがあった。収容室の鍵はすべてアナログだからいいが、あそこに出入りするためのシステムは電気を必要とする。それが緊急事態を察知して非常警報を鳴らした。監視員官はもちろん、収容者も全員目を覚ますような大音響だ。 ―― ところが、一番騒ぎそうな男が何の反応もしないので、まっさきにローランドを確認しにいった」
「すでに、死んでいたと?」
「心肺停止状態。蘇生は成功しなかった」
ただし棚が倒れたわけじゃない、とおもしろくなさそうにつけたす。
「監察医の話しだと、死因は脳梗塞だ」
「のうこうそく?」
「脳の血管が詰まるっていう?」
いまいちピンとこない二人に、ギャラガーは自分の白髪頭をさわりながら説明した。
「 わたしらの年代だと身近で耳にするが、君たちにはまだなじみがないか。 だが、若年性脳梗塞というのもあるそうだ。 ―― たしかにローランドの生活はあのとおり乱れていたし、原因はあったかもしれないが、静脈内にもそれらしい血栓はみあたらなかった。 それに、収容する前に一度、健康診断を受けさせているからね。それらしい症状があればわかっていただろう」
「独房内での異常は?」
「さっき言った言動ぐらいだ。何かを怖がっていた。食事はしっかりとるし、痛みや苦しみをこらえていたような感じではない。それに、おびえ方がいくら普通じゃないといっても、コンクリートの壁に頭を打ちつけるとか、爪がはがれるほど壁をかくとか、そういう行動はおこしていなかった。どちらかというと、布団にくるまって自分の身を守り、ガタガタ震えてたようだ」
やつの性格そのままですね、とマイクが言うのに、ジャスティンは、自分もすこし前に『呪い』の夢をみて布団にくるまって震えていたとは言えなかった。