移送
周りの視線をあつめながら移動した会議室に押し込まれると、そこには昨夜一緒に酒を飲んだ、重犯罪部殺人捜査課のマイク・ベネットが座っていた。
ジャスティンが挨拶をするより前にマイクが口をひらく。
「ローランドの病院移送が決定したらしい」
「いつ!?」
思わずジャスティンはつめよる。
「おれもいま長官から聞いたんだ」
ギャラガーが機嫌よさそうに微笑む。
「まあ、防犯のほうでもこれ以上聞きだせるものもないだろうという判断がおりたし、かなりの数のギャングも捕まえられた。おまけに、いくつかの製造所と彼らが所有する会社にも強制捜査に入れたよ」
「ノアが、パーティーに参加してたやつらを起訴にもっていけなくても、それで帳消しだって笑ってるぐらいだ」
マイクの言葉にうなずいた男は続ける。
「これでやつらの『会社』は一度完全に機能停止だ。この州においてコザックファミリーは一大勢力だったから、あと釜を狙ってる他のギャングとの小競り合いがこれから始まるだろう。 つまり、コザックファミリーおよびこの周辺のギャングどもは、しばらくは縄張りと勢力を争うことだけに集中しないとならない。ノアたちが、これで『面倒をみやすくなった』ってよろこんでいる。ローランドはギャングに恨まれるかもしれないな」
のんびりとした発言に、マイクが苦笑いしながら、そうなんですよ、と腕をくむ。
「弁護人は、一刻でも早くローランドを病院に送って医者に診断書を書かせて成功報酬をとりたがっているのに、本人が、行きたくない、と駄々をこねてるのはきっと、コザックファミリーの報復を恐れてるのもあると思うんです。 実際、長官がおっしゃったようにやつらの業務は停止になるでしょうが、ファミリーが解体したわけじゃありません。やつは狙われるはずです。 ・・・もう少し様子をみてからの移送にしませんか?その方が安全ですし、―― 正直、やつにはまだ聞きたいことも残っています」
「ほお。それは、なにかね?」
ギャラガーはおもしろそうに腕をくみ壁にもたれる。
マイクとジャスティンは顔を見合わせ、しかたなくマイクが代表して、昨日の酒場での話をはじめる。