№35 ― 待っていた
№35
そんなことのあった翌日―― 。
ジャスティンが自分の属する組織の『上官』とよばれる人種に会う機会があるのは、任官式にあたる任命式典と、なにかのお祭りの警備にまわされたときぐらいだった。
なので、コーヒーを買いに行って戻った自分の机に腰かけて待つ男が誰かなんてまったく思い出せなかった。
まあ、どうりで部署の責任者であるフックおよび周りの人間が、おかしなぐあいに起立してこっちを見てるなとは、思ったけれど。
「やあ。きみがジャスティン・ホースだね」
「そうだけど。あんた、そこおれの大事な席なんだけど、ケツをのせるならどっか他にしてくれよ」
見守っていた同僚がひどく慌てて顔をふり、フックがため息をつくのがみえたが、相手はにこやかに謝って立つと、意外に整頓されてるね、と感想をのべた。
「ああ。おふくろみたいに口うるさい口髭のおやじがいてね。そいつが仕事ができる奴ってのは、机もきれいにできるもんだ、なんて言うから、きれいに保つことにしてる」
「それはいい」
親しげに肩をたたく男が質のいいスーツのポケットから折りたたまれた紙を取り出し、ジャスティンの手に渡す。
コーヒーをすすりながら片手で雑にひらいた紙は、この前フックに提出した書類で、ジェニファーとの面会許可がおりた旨が書かれていた。
「時間がかかってしまって申し訳ない。少しばかり、むこうの弁護人がだだをこねて事をややこしくしようとしてね。 黙らせるのに少し手間取ってしまった」
「・・・・・・・・・・・だ・・、っだ、」
顔に血を集めたジャスティンの手がゆれてコーヒーがこぼれそうになるのを、書類を届けに来た男がすくうようにカップをとりあげ、未然に防ぐ。
「コーヒーの染みがついたからって、再発行はできないよ」
「だ、そ、ぎゃ、ギャラガー長官、たいへん失礼いたしました!その、」
あわてて姿勢をただしたジャスティンの肩に手を置き、「彼をちょっとかりるよ」と周りに宣言したこの組織の上に立つ男に肩を押されて部屋をでる。