お気をつけて
そんな二人の様子をわらったように、女は軽やかな声で、「今のおはなし、すこし違うと思いますわ」と微笑みながら煙をはいた。
「ちがう?」
と、のりそうになるジャスティンを目で制し、「きかなかったことにしていただけませんか?」と、マイクがゆっくりと口にする。
自分のうかつさに腹が立ってもいるが、この女のいきなりの否定はもっと腹立たしかった。
女はマイクの申し出に目を大きくし、ああ、と納得したように、もう半ば過ぎまでの煙草を灰皿に押し付けると、ごめんなさい、と謝った。
「 いきなりで驚かしてしまって。わたくし、ワクナ・アッツボーと申します。占いを生業としておりますの。 実を申しますと、今日、このお店に大事なお仕事を抱えた男性お二人が来て、間違った道をえらびそうだと知り、わたくしが手助けできないかと、ここでおまちしておりましたの」
何も答えないマイクのかわりに、ジャスティンがきく。
「・・・それは、ええっと、占いで出た。ってこと?」
ええ、と女は足を組みかえて笑う。
何枚もの布が重なったような長いスカートには深い切込みがはいっており、あらわれた白い腿にジャスティンは目をうばわれる。
「 ローランドという人が恐れているのは、本物の『呪い』でしょう。それは、人間のしくむ『呪い』ではなく、ギャングの仕返しなんかよりも、もっと恐ろしいものですわ。―― どこに逃げようとも、『呪い』はずっとつきまとう」
「―― 失礼だが、あんたおれたちの話をききかじって、おもしろそうなところだけつまみあげてみせてるんだろう? ―― 趣味が悪い 」
マイクの断言に女は寛容に微笑んだ。
「お気をつけて。彼も、―― あなたたちも」
立ち上がり、吸っていた煙草の香りをのこして女は去った。
目立つ容貌なのに、店の中のだれひとり、女を目で追わなかった。
女の去ったボックス席に移動したジャスティンが、ひきつった声でマイクを呼ぶ。
「なあ、さっきあの女、この灰皿に煙草おしつけたよなあ?」
テーブルの上の灰皿は、灰もなくきれいなままだった。