要注意な女
びっくりした二人がそれぞれの左右をむく。
それぞれが耳もとで聞いたと思った声の主は、ななめむかいのボックス席に一人で座る女だった。
「 突然ごめんなさい。 お話が耳にはいってしまったものですから 」
薄暗い店の中でもその容貌は目をひいた。
白い肌にまっすぐな黒く長い髪。濃く縁どるような化粧をされた切れ長の眼に、真っ赤な口はひどく大きい。
見慣れないどこかの民族衣装のような服の胸元は広くあき、おおぶりな金細工のアクセサリをのせた胸の谷間は深い。細い煙草をゆらす手首には幾重にも巻きつく金の腕輪をはめている。
「 ―― おれたちの話をきいてたって?」
固い声できいたのはマイクだった。
ええ、と微笑んだ女は、指にはさんだ煙草をゆっくりと赤い口へ運ぶ。
マイクは、少し寒気がしていた。
ボックス席が五つしかないこの広くもない店内で、こんな女が目の前を通った記憶はない。
外で仕事の話をするときは必ず周りに気を配っている。
ここは店が見渡せる席だ。
店に入った時にマイクを目で追った女たちが別の男たちと店を出て行ったのも目にいれていた。
自分の後に店に入った客はカウンター席に二人いる。
ジャスティンもさすがにこの女には要注意と思ったらしく、いつものように、すぐに女の隣に移ろうとはしなかった。