何もつかんでいない
マイクの言葉にジャスティンは、あんたがしっかりしてくれないとこまるんだよ、とばかにしたような笑いをうかべる。
「だいたい、ローランドが急に、パーティーは、ノース卿のところでみた『集会』を真似して始めたなんて言い出したんだろ? どう考えても、自分から目をそらさせるつもりなんだ。あの譜面がノース卿の持ち物だとしたって、持っていたのはローランドだ。あいつのほうがバーノルド事件に関係あるって可能性の方が高いだろ」
「あの小心者が、バーノルドの犯人?おれはそうは思えない」
「まあ、・・・たしかに印象としてはな。でも、あの男はノース卿のところにずっといたんだろ?警備官が《掘り当て》したものがぜんぶノース卿の方を指してるとしても、そこには、いっしょにローランドもいたんだ。やつだってあてはまる」
「でも、最初の事件はまだローランドは、田舎にいる時期だ」
「たしかにそうだけど。最初の事件はだけ『置き方』が違うだろ?そんで、木に頭部がつけられるのは、次の事件からだ。だからあれだけ、犯人が違うかもしれない」
「でも、二件目から犯人がちがうのに、なんで最初の事件の頭部を持ってるんだ?」
マイクの疑問にジャスティンはつまって黙る。
自分のグラスも空なのに気づき、ちょうどテーブルに来た店員に同じものを注文したマイクは続けた。
「―― それを考えると、やっぱり同一犯のほうが自然だ。それに、警備官の『掘り当て』したものを並べてみると、やっぱり犯人の印象は統一されてる。―― どこかで被害者に目をつけ、知り合って、彼女たちが自分で姿を消すように、仕向ける。なのに、・・・犯人はその痕跡をほとんど残さないし、姿をみせない。―― ゆえに、結局おれたちは、まだ何もつかんじゃいない」
最後の言葉に、なんだよ、と安心したようにジャスティンは笑う。
「てっきりあんたも警備官みたいに、ノース卿を犯人にしたいのかと思ったよ」
「たしかに。ものすごく好きになれない男だった。それに、おれの勘だが、嘘もついてる。ローランドがパーティーの人員を集めるのにつかったっていう『名簿』が残ってれば、なにかわかったかもしれないな」