№34 ― 自信はない
№34
めずらしくマイクが一人で一杯ひっかけてから帰ろうと思ったのは、今日警備官といっしょに会いにいった人物のせいで、ひどく気分が悪くなっていたからだ。
警察署の近くにいい店はないし、懐の具合もあまりよくない。
結果として選んだ店に、みたことのある顔があっても不思議ではなかった。
「よお、不景気面のモテ警官」
にやけた声でマイクを迎えたのは、カウンターにいた軽犯罪部のジャスティン・ホースだった。
初めて会ったときから礼儀とか尊敬とかを知らなかった青年は、いまだにそれを習得していない。しかも、どうやら変な噂を警備官連中にながしているようだ。
「おまえ、ケンに変なこと伝えたろ?」
「だって、ほんとにモテてるだろ?ほら、あっちの女の二人連れ、いままでおれなんて眼中になかったのに、あんたがきたとたんこっちをみてる」
「ジャスティン、おまえ、何杯目だ?」
「まだはじめたばっかりだよ」
「なら、席を変えよう」
店の奥のボックス席をあごでさし、マイクは視線をおくる女たちの前を横切った。
「・・・サラのうたったものは、『いけにえ』のためのうただっていうのか?」
二杯目のグラスに口をつけるのも忘れて話を聞き終えたジャスティンはマイクの顔をじっとみた。
「―― まあ、その『譜面』の本当の持ち主は、ちょっと異なる内容を口にしたけどな。とにかく、趣味が悪いっていう点では一致してる。 警備官たちが新しく『掘り当てた』話と、ジョニーが調べた結果での『いけにえ』説だ。―― 正直、こんなはなし《もてあまして》て、この先この事件をまとめる自信はない」
「ああ、あんたが、シェパードの代わりになったんだろ?」
「シェパードが『ああなる』何日か前にな。エミリー・フィンチが被害者に加わったときに、初動捜査の指揮官なんだから専念しろ、とか長官から指令が出て、それで今日もノース卿のところに行くことになったんだ」
「長官から?直にってことか?」
「部長のところに電話がかかった。警備官といっしょに行ってこいって」
ひえーと目をそらしグラスに口をつけるジャスティンが、あんた目をつけられてんじゃないか?と嫌なことを言う。