おびえた羊たち
じろりとにらまれた男は一度顔をそらし、ふてくされたように、何も出ない、と口にし、それより、とつけたした。
「 ―― あなたも上に立つ人間ならば、部下の行動を、もっとおさえるべきだ」
「おさえる?なにをだ?保安官としての誇りをか?冗談じゃない!」
ばん!と、今度机を叩いたのは、ブルーナだった。
「 いいかね?奴らは森の中で無害な顔をして暮らすタチの悪い《犯罪歴のない人間》たちだ。保安官の動向を知るために、手作りの置物の中に盗聴器を仕込み、仲良くしようと食べ物を、《黙って作った滑車》にくくりつけておくってくるような連中だ。 悪気はなかった?盗聴器なんて知らない?自分たちは何かの犯罪に巻き込まれただけ?」
「ありえないよ」
ウィルのあいのてに、深くうなずく。
「そう、ありえない。 ―― 彼らは《おびえた羊》たちじゃない。何のために保安官の詰所を盗聴する必要があるんだ?ヒマつぶしのわけはないだろう?彼らは、自分たちの何かを邪魔されたくないから、こちらの動きを確認する必要があった。普通の警察官ならば、そう考えるはずだがね」
にらまれたシェパードはいらだたしげに、赤い顔をブルーナにむけた。
「保安官に何の邪魔をされるというんだ?森の中をうろつくだけのあんたたちに何を?」
そこで思いついたように、ああ、あの、しつけの悪い犬の散歩に出くわしたくないだけだろ、とひとりで笑う。
「・・・あの森は元々、ノース卿のものなのに、今じゃ『番人』気取りの保安官が自分たちの領地のような顔で歩いてる。元の持ち主のノース卿や城にいる人間が、その保安官の顔色をみないとならないなんて!―― そうだ、そう!だから、盗聴なんてしてしまったんだ!」
いきなり、ひどく嬉しそうに立ち上がっていいことを思いついたように指をならす。
「その『盗聴器』を彼らが仕掛けたのだとしたら、それは保安官の、威圧的な態度から、しかたなく行ったことだ。彼らは常に、きみたちに気をつかい、きみたちの様子をうかがいながら暮らさざるを得ない、《おびえた羊》たちなんだ。 ―― 同情されるべき立場の人々に、おいうちをかけるように脅しをかけた気持ちはどうだね?」
かちほこったように、レオンと目の高さを合わせる。