譜面といっしょの『名簿』
「あれは、―― 内容は、古代宗教における『巫女』を紹介するものです」
ややうっとりしたノース卿の言葉に、思いがけず寒気がして言葉をなぞって返す。
「・・・・『巫女』を?」
「ええ、そうです。『巫女』がどれだけすばらしいかをならべたて、その女性に神様を憑依させ、お告げをきく」
「・・・『お告げ』を?」
「そうです。古代宗教では、『巫女』は神の次に力のある者だった。神とはなしができるのは、彼女だけだ」
ふいに、ジャスティンから聞かされたジェニファーという女の子が浮かぶ。それに次いでローランドの情けない顔も。
「―― 彼は・・。ローランドは自分のパーティーは、あなたのところでみたものを元にした、と言っていますが。なにか、心当たりはありますか?」
口にしてからこの問いはまずかったかと後悔する。
相手がひどく不快な表情を浮かべたからだ。
「・・・わたくしが、なにか『いかがわしい集会』を開いているとでも?」
聞き返すノース卿の表情は、先ほどの表情は見間違いかとおもえるほど、穏やかなものにもどっていた。
「・・・いえ、『みた』といってるローランドの言葉もあやふやでして。念のため ―― 心当りがないかうかがっただけです」
「ほお。あの男、まだわたしに恨みがあるようだ」
ここまで迷惑をかけられるとは思っていなかったと余裕の笑いをみせるのに、マイクはここまでとっておいた疑問をだした。
「―― そういえば、さらに迷惑な話しかもしれませんが、ローランドに燃やされてしまって残ってはいないのですがね。 彼は、譜面といっしょに『名簿』を持ち出したと言っています。それをもとに、彼は自分のパーティーの参加者を募ったと」
『名簿』に心当たりは?とたずねる前に、相手の目が一瞬不快げにすがめられた。
「さあ。まったくありませんな」
これはウソだ
直感でマイクがそう思ったとき、低い声が後ろから響いた。
「持ち出されたのに、いつ気づいたんだ?」
質問したのは、今までずっと黙っていた警備官だった。