ノース卿
黒い髪はつやつやとねじれながら、肩まで垂れ、鼻の下と顎にある整った髭も黒い。
肌は日に焼けず、シミひとつなく、目元と口元にあるシワの数は、どう見積もっても四十代のものだ。
――― 七十六歳とか聞いてたんだが・・・
「―― お若いですね」
――― ・・・気持ちが悪いほど
「そうでしょうとも。なにしろ金をかけてるのでね」
「・・・なるほど」
たしかにこの頃の美容整形はすごいとは聞いているが、こんなことができるなんて恐ろしい。
後ろに黙って立っている男に気づき、ノース卿が手をだそうとするが、低い声がそれを《拒否》した。
「おれは会うのは二度目だ」
「・・・バート、自己紹介もできないのか?・・・無礼な男ですみません。無視してください」
この、《礼儀》とか《作法》とかと無縁な男は、ケンと違う意味で扱いにくい。
「―― これは失礼。 どこでお会いしましたかな?」
気を悪くしたでもなくノース卿は聞く。
「十二年前」
「それはまたずいぶん昔だ。―― ああ、・・・あのときの、ぼうやかな?」
ノース卿は少し嬉しそうな顔で男の顔をじっと見た。
視線をうけた男は黙ったままで、しかたなくマイクは話しをすすめる。
「 ―― 今日おうかがいしたのは、こちらの『教会の人たち』が保安官の詰所にしかけた『盗聴器』の件と、ローランドのところから『押収した品』のことで、お聞きしたいことがあってきました」
どうぞとバートからはなれたノース卿は、ソファに先に座り、同じようにするようすすめる。