よけいなことを言うな
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マイクはジャスティンのように、好きで無精ひげをのばしてるわけではない。
この部署にいればどうしても身なりは二の次になるものだと、自分が新人のころに組んだ酒浸りの相棒に教えられた。
はじめのうち、決して二の次にしないようにしていた努力は、気づけばどこかへと持ち去られてしまった。
髭をほめてくれる女も時にはいるが、まだ三十代の半ばなのに、それより老けてみられることも多く、警備官の新人には、自分の父親とおなじ歳くらいかと思っていたなどといわれしまった。
それもあって、先日ひさしぶりに髭を剃り落した。
「パパ、髭がなくて寒そうだね」
車の窓を全開にして、朝の冷たい空気をとりこむ隣の男がわらっている。
「・・・ケン、今度そう呼んだら、お前のこと『家出中の子ども』として、ノアのところの新人研修資料に写真のっけるからな。おまえは街中を数メートルあるくごとに、警察官によびとめられて質問攻めだ」
「わかったよ、じゃあ、おれの父親は重犯罪部のマイク・ベネットだって新人の警察官にふきこみまくるか」
「・・・バート、なんでケンを選んだ?ニコルとかルイとかいただろ?」
ルームミラーで後ろの席にのる男に文句を言えば、鼻がきくからだ、とそっけない答え。
「鼻って・・・犬じゃねえだろ・・・」
「ジーンを吸う女といっしょだったろ?おとといあたりか?」
言葉に驚いて横をむけば、上着に煙草の匂いがついてるとにやけた顔を見せられる。
何を言い返そうかと口を開け閉めしていると、前をみるよう指示された。赤信号ぎりぎりで停車。
それにまだにやけているケンが、ひげをそったら女にもてるんだろ?ジャスティンからきいたとおもしろそうにいうので、本気であいつシメる、と心に決める。
「・・・とにかく、今日おれたちができるのは、事情を聴くことだけだ。『盗聴器』は教会にいるやつらが勝手にやったって言われたらそれまでだし、サラの指紋のついた譜面だって、ローランドがノース卿のところから盗み出したって言い張ってるだけで、ノース卿の指紋すらでてないんだからな」
こんなものは知らないと言われればそこまでだ。
ギャラガーはじめ警察官たちは、譜面の出所はノース卿でまちがいないと思っているが、検察官たちは二の足を踏んだ。
たしかに、弁護士に出張られたら、証明はできない。
「事情を聴くってのが了承されただけでも奇跡的なんだから、おまえら余計なこと言うなよ」
たとえ、警備官たちの『掘り当て作業』で、どんなことが出てきていようともだ。
「あの怪しい人間を、『本当に怪しい』って確定するまでのところにようやくきたんだ。なのに、またふりだしにもどしたら意味がないからな」
邪魔立てするシェパードがいなくなった今、ここからが本番だ。