若返る老人
ハロルド・デ・ノースに会った感想だよな?とザックが横の二コルに小声で確認。
今日ようやく、朝から警察官とともに城にはいれたバートとケンの帰りを、みんなで待っていたのだ。
「―― 目を合わせるだけで、我慢の限界だ」
バートの感想に、ケンがうれしげにカメラから抜いた小さな記憶媒体をPCにつっこみ、自分が撮ったものをみんなにみせた。
のぞきこんだ輪の中で、ウィルが、まっさきにうめき声をあげる。
「――― うそだろ・・・。ぼくが親父にみせられた写真は、四十年近く前のものなのに、なんで、こんなに・・・《変わってない》んだ?これって、恋人が若いとかの問題じゃないでしょ・・」
「美容整形だってまわりには言ってるが、少なくとも州内の病院にはかかった形跡はなし。それ以前に、あの城から出ること自体が稀だってよ」
ケンに隠し撮りされたノース卿の写真が次々と出る。
姿勢も、体の肉づきも、とても老人にはみえない。
もうひとつのPCを操作するジャンが、十年ほど前の彼だといって写真を出せば、みんな息をのむ。
「なんだ?こっちはちゃんと歳をとってるじゃないか。・・・この十年くらいの間に、いきなり若返ったってことか?こりゃ、別人じゃないのか?」
ニコルの言葉にうなずくウィルの口元はひきつっていた。
「現代の医学ってこんなことできるのかい?昔の彼は杖までついていたのに、今の彼のこの姿勢と体つきはどういうことだよ?」
PCを操作したケンが言う。
「むこうは、この状況を完全に楽しんでる。これ見ろよ。おれが、がんばって壁にはりついてるのを笑いやがった」
出された写真の中、男は窓のむこうからこちらをみあげ微笑んでいる。
続いて不機嫌な班長がさらに不機嫌な声をだす。
「こっちがようやく中にはいれてよかったなって顔してやがった」
「『こっち』が、これ以上はまだ入り込めないって事情を知ってて、余裕があんだろ。で?他には?」
ジャンの質問に、バートが天井をみながらこたえた。
「 ―― マイクがノース卿から、全部の捜索許可をもらった」
ここにはいない警察官をみんながほめたたえる中、ザックのワンテンポ遅れた声が響いた。
「あの人、―― 予想よりかっこいいかも」
新人の発言には、いつも悪気はない。