的確な判断だ
シェパードが突然、にやりと笑いをうかべた。
「そうか。『わけのわからない』とはかわいそうにな。ま、きみらにはわからないだろう。きみたち警備官とちがってわたしたち警察官というものは、組織の命令系統が実にはっきりと的確におこなわれるようになっているんだ。 だれかの家に捜索に入りたい?いいだろう。それに見合うだけの証拠があるなら。部下が集めた証拠を提示する。上司はそれが有効かどうかを判断し、さらに上の人間に許可を求める。そうして検事が許可をだして、はじめてそれを実行に移せる」
「緊急だった」
短いレオンの言葉に笑ってから、シェパードは続ける。
「逃亡したかね?ノース卿もほかの人間も、あそこにとどまっているだろう?―― いきなり、周りを警察官に囲まれ、果ては犬と警備官に脅かされて動こうにも動けないと、おびえきった彼らはわたしに助けを求めてきたんだぞ」
その言葉にすかさずブルーナが片眉をあげ、きみはあそこの人間とつながりがあるのかね?と、聞く。
軽く咳払いをした男が、ちょっと知り合いがいるだけです、と言葉をにごす。
「 だいたい、緊急の配備であっても、警察であったなら、本部に連絡して、部長の許可をとらなければ」
「レオンは階級的にはその位置にいる」
「・・・・・」
ブルーナの言葉に黙ってしまった男は、意を決したようにその顔をあげた。
何十年も保安官という仕事をこなしてきた男の目とあい、もたついたシェパードの声が、少し裏返る。
「あなたが、―― ・・・あなたも、レオンの判断を知らなかったのでしょう?こういう問題が起こった後に報告を受けても、わたしたちのように上に立つ人間は困るだけだ。彼は、緊急配備に、『独断』で、警察官と警備官も手配した。これを、どう思ってます?」
「的確な判断だ。盗聴器を見つけた時点で、盗聴をしている相手に証拠隠滅の時間を与えてはならないと考えるのが警察官としては普通だろう。 しかも、持ち込んだ相手がはっきりとしているのだから、そのねぐらをさがせば何かが出てくるはず《だった》。 ―― そうだよ。シェパード、きみは相手に証拠隠滅の時間をたっぷりと与えてしまった。 これこそ、『どう思って』いるのかききたいところだ」